人種や文化の多様化が進み、エシカル先進国で、オーガニックも当たり前のように定着しているといわれるニュージーランド。そのニュージーランドでYuka O’Shannessy(オシャネシーゆか)さんは、日本の職人技による品々とニュージーランドの作家さんの作品を中心としたコンセプトショップAN ASTUTE ASSEMBLY(アン・アスチュート・アッセンブリー)を営んでいます。伝統とモダンさを兼ね備えるお店でYukaさんに出会った鎌田は、人との縁を大事に一歩ずつ進んできたYukaさんの姿勢に惹かれ、インタビューを依頼しました。内容を2回に分けて紹介します。



■二人の出会いとAN ASTUTE ASSEMBLY

鎌田 安里紗(以下、安里紗):Yukaさんとは、数年前に私がニュージーランドを訪ねた際、たまたま入ったセレクトショップでAN ASTUTE ASSEMBLYセレクトのキャンドルを見ていたら「日本の方ですか」と声をかけてくださったのがきっかけで出会ったんでしたよね。その後、ニュージーランドを再訪した時に、そのキャンドルを作る工房などに連れて行ってくださいました。ニュージーランドのアーティストさんたちに会ってお話することができて、とても貴重な経験になりました。

ゆかオシャネシーさん(以下、Yuka):お店に置いているニュージーランド作家の作品は、ほぼみんな友達のアーティストさんが作っているんです。ニュージーランドは歴史が浅い国なので、伝統というものがありません。そのなかで若者が手探りで思い思いに作品を作っているんですよ。


出会いのきっかけとなったキャンドルをつくるMark Antonia Ltdのオークランドの工房にて。2017年。


安里紗:ユニークで美しい作品ばかりですよね。お店の名前に思いが込められているのだと思ったのですが、AN ASTUTE ASSEMBLYとはどういう意味なんでしょうか。

Yuka:Astuteは形容詞で、「奥深い」とか「気が利いた」、「巧みな」、「彗敏な」といった、ちょっとひねりのあるすばらしさを指す言葉で、Assenmblyは「重なり合い」、「集合」という名詞です。巧みで美しいものが重なり合ったらどうなるか、というイメージでつけました。若い頃から暇があれば美術館に行くなど、昔から美しいものに心が惹かれてきたので、それを表現したいと思ったんです。


■日本とニュージーランドの手間暇かかった品物を集めたAN ASTUTE ASSEMBLY

安里紗:たしかに伝統とモダンと、Yukaさんたちのセンスが美しく重なり合うようなお店ですよね。商品はすてきなものばかりですが、扱うものの基準はあるのでしょうか。


Yuka:AN ASTUTE ASSEMBLY(以降AAA)はビジネスパートナーの下山陽子さんと始めたのですが、彼女との日本の良いものを伝えたいねという話からスタートしたので、日本の職人技の品で、こちらのモダンなウエスタンスタイルのおうちの美的感覚に合うようなモノを中心に作品を集めていました。
日本を離れると、伝統を持つ日本の良さや美しいものが見えてくるんですよね。そういった品々を通して作り手のストーリーを伝えていくことで、こちらのアーティストを勇気付けることもできると思いました。

日本の職人技の品以外はインスピレーション、心で惹かれたものを選んでいます。どれも作り手の時間とこだわりの詰まった作品ばかりなので、そこには必然的にストーリーがあります。その人がどんな思いで作っているのか、作り手にスポットライトを当てて伝えていくのが好きですね。


AN ASTUTE ASSEMBLYでセレクトしているMADE IN JAPANの品々。

 

Yuka:日本とニュージーランドの作家さんだけにと決めこんでいるわけではなく、どこかで日本の文化につながっていたり、コンセプトに惹かれたりすれば、作家さんに直接アプローチしてお取引を依頼します。どれも基本自分が実際使いたい、そばに置いておきたいものです。使ってよかった時って、その感動をみんなに伝えたくなります。AAAはそう言ったモノが集まった場所でもあるのかもしれません。


ただ、日本や世界からすてきな商品を持ってくるには、やはり送料のコストの事やCO2廃棄問題などあったりもしますサステナブルという観点で考えると、ローカルの作家さんのものを愛して紹介していく会社でもありたいなと思っています。ニュージーランドの素晴らしい作家も私の周りに多く、彼らの作品をご紹介していく流れにも自然にとなってきました。こちらの人はMade in NZのものを好んで選択する人がたくさんいます。 


AN ASTUTE ASSEMBLYで扱っているニュージーランドの作家Marta Budaのバッグ。


安里紗:AAAと取引がある作家さんたちには、何か共通点はありますか?


Yuka:小さな工房で手間暇をかけて作っている方がほとんどです。作品も、作る意味や信念が込められているものが多く、長く使っていくとアンティークになれるようなものばかりです。日本のものの場合は南部鉄器など、少しずつ時代のニーズに合わせつつも基礎は変えずに100年以上同じものを作り続けてきている、というところのものが多いです。


■良いものを自分の感覚で選び、購入することの豊かさ

安里紗:日々の生活の中で何かものを買う時は、アクセスしやすい場所にある手に取りやすい価格のものを選択するという流れが生まれやすいと思います。Yukaさんのお店は、それとは異なる流れの中にあるように思いますが、お客さまはどのようにお買い物をされるのでしょうか。

Yuka:日本ではみんなと一緒のものをよしとするようなところがありますよね。教育でもそうでしたし。小さいスペースで多くの人がうまくやっていくために協調性や協力が大事だから、そうなっているのかなと思います。その結果、トレンドというものの影響も大きいですよね。一方、ニュージーランドではトレンドにこだわる国ではないですね。自然と隣り合わせに生きている方が多いからか、個性が非常にはっきりしていて、一人の人間として生きている方が多いように思います。ものを選ぶ時にも自分の基準があるんです。

AAAに来てくださるお客さんも、果たしてこれは本当に必要なのか、自分の家に合うのかをしっかり見極めてから買っていかれます。説明してもすぐに買うというわけではなく、一度家に帰ってやっぱりほしいと戻ってきてくれる。売り手としてはちょっと大変ではありますが、やりがいがありますね。


AN ASTUTE ASSEMBLYで扱っているMark Antonia Ltdのキャンドル。

  

安里紗:すてきですね。価格に対する感覚も違うのでしょうか。


Yuka:ニュージーランドでは最低賃金がどんどん上がり、それに連動して物価が上がっています。その影響で生活がちょっと大変な方もいるし、貧困問題も深刻です。だからきれいなものならすぐに売れるというわけではないんですが、お金の有無にかかわらず、良いものを買いたいという人が多いように思います。良いものを買えば長く使えるということを知っているからこそ、品質と価格をよく考えて買う人が多いのでしょう


■伝統を生活の知恵に変えるワークショップ

安里紗:Yukaさんは金継ぎのワークショップもお店でなさっていますよね。ものを大事に使う文化だと、金継ぎも馴染みそうですね。

Yuka:そうですね。AAAは1年くらい前から実店舗を持つようになったのですが、場所があることでずっとやりたかったワークショップがやれるようになりました。金継ぎは、私自身がずっと習いたいなと思っていたのですが、オークランドに教えられる日本人の方がいて、その方から習ったのがきっかけで始めたんです。

安里紗:ワークショップをやりたいと思っていらしたのですね。

Yuka:そうなんです。ワークショップをしながら日本の話をしたり、それにまつわるものを置いて販売したりということを通して日本の文化を伝えるのが一番しっかりメッセージが伝わるのでは、とビジネスパートナーの陽子さんとも話していて。今では和紙づくりやモダンカリグラフィーのワークショップなども行なっています。
もちろん金継ぎや和紙づくり、カリグラフィーは伝統工芸ですから職人、プロと言えるまでは長年の積み重ねが必要です。ワークショップの講師も職人というわけではないのですが、「このテクニックはすばらしいので、自分なりの表現に使ってください」という一言を添えて行なっています


AN ASTUTE ASSEMBLYの金継ぎワークショップの様子。


安里紗:私は染め物に興味があって、ときどきワークショップをひらきます。汚れてしまった服や飽きてしまった服を捨てるのではなく、生まれ変わらせることができたら素敵だなぁと。
もちろん、私は染めのプロではないので高い技術は持っていませんが、生活の中の知恵として知られていけば楽しいなというスタンスで開催しています。
その上で、熟練の技術で染めてくださる職人さんの存在もご紹介することで、気軽に自分でやってみたり、プロにお願いしたりといろんな選択の幅が生まれるといいなと思っています

Yuka:そうですよね。金継ぎは、伝統的なやり方でやろうとすると漆だから時間がかかるんですが、今は本職の蒔絵師さんたちも接着剤を使うこともあります。ですので、私も金継ぎワークショップでは、最初に蒔絵師さんが金継ぎの方法をしっかりと英語で紹介する動画をお見せして、伝統的にはこうですが今はこういった直し方もあります、とお伝えしています。接着剤も現代のツールなので、うまく取り入れながらものを直して使う、という方法をお伝えしていきたいですね。
それから私たちのワークショップは、伝統をスタイリッシュに、モダンに伝えたらどうなるのかという表現活動のひとつとして行なっています。一度行なってみると、ニーズがあったようで、うれしいことに口コミで広がっていきました。今では月1−2回、ワークショップを開催していますが、参加者のほぼ90%がローカルの方です。



安里紗:伝統的な技術や考え方は、安易に触れてはいけないと尻込みしてしまいがちですが、伝統を自分なりにどう生かしていくかは、それぞれが考えてやっていけばいいはずですよね。ワークショップを開いたら来てくれる人がいるということは、求めている人がいるということですし。

Yuka:そうですね! 私たちがお店を立ち上げたり、商品を集めたり、ワークショップを開催したりするのは、自分が好きだからという本当にシンプルな理由です。だからこそ、皆さんが共感してくれる言葉がうれしいし、活力になります。そして次のことを形にしてみたくなるんです。そうやって今に繋がってきています。


■ものの価値が上がるような売り方

安里紗:いいなと思うものを見つけてお客様に紹介し、届けていくまでに、気をつけていることがあったら教えてください。

Yuka:AAAは最初、オンラインショップのみから始めて、そのあと卸を始めたのですが、あまりたくさんのところには卸さないようにしています。特別感を大事にしたいし、簡単に手に取れるようになってしまうと、ものの価値が下がってしまうこともあるので。
卸となると、価値観やストーリーが伝わりにくくなりますし、流通に透明感がなくなる可能性もあります。私たちだからできる仕事を目指して、こじんまり、コツコツ仕事をこなしています。

また、特別感を出すためにも一点ものをたくさん集めたり、少人数のアーティストに焦点を当て展示会などを行ったりしています。仕事量も増えて大変なことも多いですが、アートディーラーさんのように、AAAに置けば価値が上がるようなお店になれるようにと心がけているんです


オークランドのAN ASTUTE ASSEMBLYのショップ。


安里紗:実店舗があることで、それはもっとやりやすくなったということでしょうか。

Yuka:そうですね。実店舗で手に取って見られることはとても大事だなと感じています。手に取って素材の感触を確かめることで、さらに良さがわかったり、作り手のメッセージをそこから感じられたりすると思うんです。また、お店にお客さんが入ってきたときにいい気持ちになれるようなお店の空間づくりをしています。物ってどこにどのように置かれるかで、「映え方」が変わると思うんですよね。好きな京都のお香を毎日焚いたりして、そこにある香りや空気も大切にしています。

また、取引開始時に、やりとりが気持ち良くて「この人たちとは長く付き合っていけるな」と直感で感じられる方達とお仕事をするようにしています。商品が届くまでにやりとりを重ねる中で、気持ちのやりとりもたくさんあって情が沸いてきます。人に助けられて今があり、いろいろな高いハードルを超えられたり、成し遂げられたりしているので、商品が届いたら恩返しとしてこちら側でも精一杯やりたいと思っているんです。

安里紗:すてきですね。この後はAAAが生まれるまでについて聞かせてください。


後編に続く



Text フェリックス清香

Photo Yuka O’Shannessyさん提供