地球環境や着る人に優しいブランドを目指すCASA FLINE。
「オーガニック/サステナブル素材」「ローカルメイド」「リユース/アップサイクル」「クラフトマンシップ」の4項目を軸に、美しいムービーなどで作り手の顔や背景が紹介しながら、丁寧な物作りを行なっています。
その姿勢とファッションセンスに惹かれた鎌田が、デザイナーの石井さんに物作りにかける想いをお聞きしました。



■自分の気持ちを大事にして働いて、たどり着いたデザイナーという仕事

鎌田 安里紗(以下、鎌田):Little Life Labでは「ちいさなことこそ大切に」というコンセプトを掲げています。仕事や生活のなかで、ふと違和感や疑問、興味を持つことがありますが、それはとても大切なものではないかと思うのです。

先日お話をさせていただいたときに、石井さんはそういった小さな気づきをずっと大事にしながら仕事をなさってきたのだなと感じました。デザイナーになられた経緯もそうですよね。最初はお洋服の販売員をなさっていたと聞きました。

石井 瑛真(以下、石井):そうなんです。高校生の頃からお洋服が好きで、バイトをしてはお洋服を買ったり、雑誌を切り抜いてコラージュを作ったりしていました。

鎌田:コラージュ、私もやっていました! 切り抜くと裏が見られなくなるから雑誌を2冊買ったり。今はみんな、きっとやらないですよね。インスタでスクショするくらいかな。




石井:雑誌、切ってましたよね(笑)。で、高校3年生のときに進路を決める段階になって、みんなが急に「介護の仕事がしたいから、専門学校に行く」などと話し始めて、「いつそんなこと考えてたのー?」ってびっくりして。そのときに、私にできそうなことは服を売ることくらいだなと思ったんです。洋服のことなら人よりも知識があるし、人と話すことも好きだから販売員だったら自信があるなって。それで、実家から通いやすい、横浜の駅ビルのファッションブランドでアルバイトを始めたんです。その後、数ヶ月でSHIBUYA109に異動になりました。

鎌田:私も一緒です。最初は池袋サンシャインの販売員で、数ヶ月後に109に。109に異動になるのって、うれしいですよね。


石井さんが着ているのは、廃棄予定だった糸をリユースして作られたCASA FLINEのワンピース

石井:うれしかった! 選ばれたーと思って。そして109で販売員として働くなかで、今度は「なぜ販売員をやるのか、その先に何があるのか、そこに行くには何が必要なのか」を自問自答するようになりました。109には、「選ばれた」と思っている気の荒い女子たちがたくさんいたし、いろんな経験をしている人がいたから。

鎌田:そうですね。石井さんと私はちょうど同じ頃に109で働いていたからわかります。強気な人もいたから、凛としていないと流されてしまう、と私も感じていました。

石井:そう、周りに流されずに自分からチャンスを掴みに行かなきゃいけないと思うようになったんです。それで考えたのが、ファッションの世界で一番かっこいいのはデザイナーだなということ。入荷したお洋服に対して「ここがもっとこうだったら売りやすいのにな、着たいのにな」と思っていたこともあって、デザイナーになろうと決めました。

鎌田:デザインの勉強はされていたんですか?

石井:していないです。それこそ、高校生の時に、雑誌でコラージュを作っていたくらい。でも毎週仕事の休みの日に、当時働いていたブランドの本社のディレクターを訪ねて時間をとってもらい、コラージュを見せて「こういうのがあったら売れます」とアピールしていました。時間がとってもらえないときには置き手紙して。

鎌田:すごい。販売員ってとても疲れるから、休みの日にはゆっくりしたいものなのに。どのくらいその生活が続いたんですか?



鎌田がこの日着ていたのも、CASA FLINEのワンピース。長い裾にドラマチックな気持ちに。CASA FLINEでは立体的なデザインにその人の所作、仕草が加わることで完成する、4D Wear(3D立体+動き)を大事にしている。

石井:販売員生活3年間のうちの最後の1年くらいかな。同時に、周りの人に面談時などに「私はデザイナーになるので、今後は…」と決定事項のように話していました。そういう生活を続けてディレクターに「これいいね、このネタもらうね」と言ってもらえるようになってきた頃に、東日本大震災が起こったんです。

あのとき、多くの人の物の見方が変わりましたよね。私も何か突き動かされるように「今、デザイナーにならなきゃいけない」と思って本社に電話して頼んだんです。

鎌田:本社は受け入れてくれたんですか?

石井:受け入れてくれました。だって私、「今デザイナーになれなければ辞めます」と言ったんですよ。


■デザイナーとして仕事をしていたときに気づいた違和感

鎌田:その時は、10代後半から20代後半向けのアメリカン・スイート・カジュアルなブランドでしたよね。その後、美しいシルエットと上質な生地で大人の遊び心を追求したストリートかつエレガンスなブランドを移られましたよね。なぜですか?

石井:丁寧な物作りを学びたいなと思いながら仕事をしていた時に、のちに転職することになるブランドのデザイナーのことを知ったんです。その人がブログやカタログに書いているメッセージから、丁寧な物作りとプライドをもって仕事をしている姿勢が伝わってきて。いつかこの人の下で働きたいなと思うようになりました。そう思っていたら、ご縁があって実際に働けることになったんです。

鎌田:実際に、その憧れのデザイナーさんと仕事ができるようになったのですね。その方と働くのは、どうでしたか?

石井:成功し続けている人はやっぱり生半可じゃないと感じました。デザインにかける時間がものすごい。寝ずに仕事をしていて。ハードワークでしたが、その時はとにかくその人に認められたかったから、4年間、もう一生懸命働きました。入社する前から、いつかアシスタントではなく自分がデザイナーとして仕事をしたいと思っていたので、会社にもそう伝えて入社して、本気でその人の動きを勉強させてもらうつもりでやっていました。




鎌田:そこをやめるきっかけは何だったんですか?

石井:デザイナーとして生きていこうと決めていたし、下の子たちに頑張ったらこんな風になれるよとキラキラした姿を見せてあげたいと思っていたんですが、今の状況が果たして本当にかっこいいのだろうかと疑問に思い始めたんです。当時は、夜10時半から夜中2時くらいまでメーカーさんと打ち合わせをしたり、社内だけなら朝まで働くこともよくあって。服が売れる喜びと大変さのバランスも崩れてきました。そういった自分の仕事環境への疑問が高まる一方で、大きな規模でものすごい早いサイクルで物作りをすることの限界も感じてきたんです。

鎌田:どういったところから限界を感じ始めたのですか?

石井:メーカーさんとコミュニケーションをしようと思っていたので、最近の状況などを聞いたら「工場さんたちが本当によくやってくれてんですよ」と言われたんです。その言い方から、「あれ? 幸せじゃなかったの?」って。そこから少しずつ大量生産を猛スピードでやることに疑問がわいてきました。

たとえば、私たちが「こういうピンクにしてください」と私たちがメールで発注して、納品された製品が要望を出したピンクと違うとする。微々たる差なんですよ。でも、要望と違うから、と私たちはNGを出してやり直しを依頼する。納期に間に合わななければ私たちには損害が出るし、楽しみにしているお客様を待たせてしまう。だからメーカーさんに急ぐように依頼する。メーカーさんは工場さんに急いでもらって量産したのに全部突き返されてしまって、さらに猛スピードでもう一度、量産することになる。そして、NGが出た製品は当然売ることもできない。そういった状況が当たり前になっているんです。

鎌田:辛い状況ですね……。でもそれが当たり前な状況なのですね。

石井:そうなんです。一緒に仕事をする場合は、どちらがお客さんでも立場は対等なはずです。でも、メーカーさんは私たちが気持ちよく仕事をできるように、持ち上げてくれるんですよ。そういった空気感の中で私たちがちょっと天狗になっていたのかなあ。デザイナーとメーカーさんのチーム内のバランスが崩れると「違うじゃん、これ。ありえない」とデザイナーが変な風に指摘し始める、そういうおかしな空気感がありました。

でも、一度できてしまった空気感を変えるのはなかなか難しいし、毎日忙し過ぎて、自分たちが天狗になっていることにも気づけていない。そんなループが限界だなあと感じました。

鎌田:石井さんのそこがすごいと思うんです。その空気感の中にいたら当たり前のことに、違和感をもったんですよね。なぜ気づけたんでしょう。




石井:親や周りにいる大人たちが、何事も当たり前だと思うんじゃないよ、いろんな世界があるしいろんなチャンスもあるしいろんなやり方もあるよと、ずっと言ってくれたし、背中を見せてくれていたんです。調子に乗っていたつもりはないけれど、「勘違いするなよ、己惚れになるなよ」ってずっと言ってくれました。それから、いずれ自分でブランドをやりたいと思っていたから、「自分がやるときはどうしよう」と、ちょっと引いた目で見ていたこともあるかもしれないですね。



■自分でブランドを作ろうとする中で立ち上がってきた「サステナブル」というキーワード

鎌田:その後、ブランドを立ち上げるまではどのような経緯があったんですか?

石井:ここでできることはやりきったなと思って、何も決まっていない段階で退職しました。毎年4回の展示会が終わるといつも海外旅行に行っていて、いろんな新しい発見をしていたから、職場のみんなはファッションではなく別の道に進むと思ったようです。退職からブランドを立ち上げるまで2年くらいかかりました。

辞めてから、何社かデザイナーとしてのお話をいただいたりもしたけれど、今までと同じような物作りをすることが条件でした。それだと私があれだけ悩んだ、生産者と自分たちの関係性という点が何も解決できない。だから、やってみたい気持ちがあったお話も全てお断りさせてもらいました。悩んだけれど、自分が大切にしたい軸や思いに気づきました。

鎌田:自分のなかのモヤモヤとちゃんと向き合ったんですね。なぜそれができたのでしょう。

石井:自分の中の感情優先型なんですよ、私。「なんで私、そう思ったんだろう」と自分と向き合う。自分と向き合って、自分に付き合って生きるタイプなんです。




鎌田:それってとても大切ですよね。その思いを、どうやってブランドに反映していったんですか?

石井:自分が思っていることを目に見える資料にしなきゃと思って、最初に出したコンセプトが「人に優しい服」ということ。最初は肌触りだったり、心地よくて風になびく、感じる柔らかさ、優しさっていうイメージだったんです。でも、それを持っていろんな人のところに行っても、「それって結局どういうものなの? フェミニンなの? 誰がターゲットなの?」と言われてしまって。それで、あー、ブランドってそういう風に考えて作るものなんだと学びました(笑)。それで誰かに話を聞いてもらっては、資料にワードを付け足していって。

鎌田:実地で学んで、研ぎ澄ましていったわけですね。




石井:そうなんです。そうこうしているうちに新しいことをしたいという人がパラパラと集まってきて。その人たちと半年くらい毎週会議を重ねる中で、私が言いたい「優しい」が、着る人や作る人にとっての優しさだけでなく、地球や自然なども含むことがわかってきました。そしてある時に「社会問題」というワードが私の中で浮かんできて、そこからまた議論を重ねて「サステナブル」というワードが出てきたんです。そこからの動きは、早かったですね。じゃあ、オーガニックとか天然素材が必要だね、生産者さんの思いを伝えるムービーを作って買う人に届けたいねって。


CASA FLINE Craftman's Story



鎌田:人と話しながら譲れないところや大事なところが見えてきたんですね。今このワードを色々なところで目にするから使おう、とキーワードからスタートするのではなく、だんだんと言葉に近づいていく感じがいいなと思いました。今までの思いが「サステナブル」という言葉によって明確になったわけですね。


無理せずに続けるために据えた、4つの軸

鎌田:サステナブルを謳うCASA FLINEですが、素材選びなどは迷いませんか? 環境にもよく、デザインもよく、コストが上がりすぎずと考えると、非常に難しい要素がありますよね。その点はどう考えていらっしゃいますか?

「エシカル・ファッション・ブランド」に関しては、ストイックな印象を持つ人も多くて。たしかに、その気持ちもわかるんです。あの素材もだめ、この素材もだめ、それは環境に本当に大丈夫なのかと突き詰めていくと身動きが取れなくなって、「もう東京で働くのも無理だ。田舎に引っ越して、自給自足して服を全部手作りしなきゃ」みたいに、非常に原理主義的な、息苦しい状況になっていきますよね。

石井:わかります! 私たちも、一瞬だけフリーズして、お洋服が作れないと思ったもの。「協力するよって言ってくれているメーカーさんでもできないかもしれない!」って。だからCASA FLINEは「オーガニック/サステナブル素材」「ローカルメイド」「リユース/アップサイクル」「クラフトマンシップ」の4項目を軸に据えることにしました。これは、私がデザイナーとしてファッション業界で戦いたい気持ちと、地球や人に優しくありたいという気持ちに折り合いをつけるためのものなんです。

私たちもご飯を食べていかなきゃいけないし、私は高価な服を作るデザイナーではなく、「今こうなりたい」を叶えられるデザイナーでありたい。だから4項目をあげて、どれかに当てはまればサステナブルだと考えることにしました。私がデザイナーとして無理なく、持続可能であるためにも必要だったんです。




鎌田:「折り合いをつける」という姿勢、大事ですよね。デザインを諦めず、できるかぎりサステナブルな方向で物作りをして、自分もサステナブルであるために、良いバランスを求めた結果だったんですね。

石井:そう。4項目のどれかに当てはまるものであれば良いということにしたので、今素材選びはそこまで苦しんでいなくて。メーカーさんに「こういうのはないかな」と相談することもありますし、工場さん側から素材を提案してくれることもあります。1年半前たって、私たちのことをわかってくれて、「やれる範囲でやります」と言ってくださるようになりました。

鎌田:共同作業的な感覚が生まれてきているんですね。そして工場さんで、あのかっこいいブランドムービーが撮影できているわけですね。ホームページに載っているものも全部拝見しましたが、工場をあそこまで見せているのは本当にすてきです。

石井:まだまだ勉強不足で、もっと見せられるのになあと思っています。たとえばブルキナファソのコットンを買い付けて、日本の岡山の工場さんで糸を紡いで布に織ってもらって、中国の縫製工場でお洋服を作ってもらっているのですが、ブルキナファソという貧困の国をファッションを通じて応援できるんだということをもっと見せられたらな、と。


ブルキナファソのコットンを岡山の工場で布にして中国の紡績工場で作ってもらってできたワンピース。これだけ立体的な服は中国の高い縫製技術でないと作れないが、パターンは日本でないと引けないそう。

鎌田:岡山と中国の工場はホームページに載っているところですよね。コメントがとても素敵でした。

石井:撮影前には、どうしよう、どうしようって緊張していたので、思っていることを言ってくださいと伝えたら、ワンテイクであんなにすてきなコメントを言ってくれたんです。泣いちゃいました。もう、運命共同体みたいな感じですね。「無理だったら言ってね」というような関係性になれたかなと思っています。

ブランドの軸になる4項目を掲げたところに、私らしさがあるかなあと思います。もし「『Made in Japan』を突き詰めて物作りをします」というコンセプトだったら、私じゃなくてもよかっただろうと思っていて。ただ、折り合いをつけられるようになると、ちょっと物足りなくなってきました。他の人でもできちゃうかもって。


CASA FLINEが2019年にやっていきたいこと

鎌田:4項目でサステナブルを追求するだけでは、ちょっと物足りなくなってきたとのことですが、CASA FLINEで今後やっていきたいことはありますか?

石井:さらにお洋服を作る背景を紹介していきたいですね。どのくらいの人が関わっているのかを紹介して、お洋服の金額に納得してもらいたいです。




鎌田:お洋服の値段って何なのだろうと私もよく考えます。良いものをちゃんと作ろうとしたらコストはかかりますよね。市販のものが逆に安すぎるのかもって。

石井:値段が高いと、ブランドのエゴのように思われることもあるでしょうね。でも、例えばCASA FLINEでもお願いしているハンドニットは、中国でももう編める人があまりいなくて、あと10年お願いできるかどうかわからない状況なんですよ。そういう状況をもっと動画で紹介して、知ってほしいですね。

鎌田:私もネパールの工場に出かけてハンドニットを体験させてもらったことがあります。とても難しいですよね。工場の様子を動画で見られたら、そのお洋服のすごさがわかりそう。背景を紹介すること以外には、他にはありますか?


ハンドニットの工場で作られたカットソー。ワンピースとパンツもある。

石井:「オーガニック/サステナブル素材」「ローカルメイド」「リユース/アップサイクル」「クラフトマンシップ」の4項目は直感的に決めてしまったので、それをなぜ大切にしたいのか私たち自身が深く丁寧に考えていかないといけないと感じています。その方が、もっと多くの人に共鳴してもらえるだろうなと思っていて。思想の輪をひろげていくようなことをしたいですね。また、CASA FLINEがお客様と一緒に何かできる機会も増やしたいなと思っています。具体的にはビーチクリーンをやったり、お客様と一緒にデザインを考えて唯一無二のお洋服を作ったり。それからお直しのワークショップもやりたいです。

それから、私たちじゃないとできないことをもっとやっていきたいなと思っています。例えばご縁を活かすとか。ありちゃんともこういう関係でいられるから、何か一緒にできたらいいですね。




鎌田:ぜひ! 定期的に、洋服の生産現場を訪ねるツアーを企画しています。CASA FLINEの工場を見に行く旅の企画なども作れたらいいですね。

石井:何か本当に一緒にできたらうれしい! 考えましょう。




違和感や自分の思いをしっかり見つめ、そこから自分のできることを紡いできた石井さん。その着実で無理のない姿勢はお洋服にも表れています。ちいさな気づき、ちいさな思いを大事にすると、ここまでたどり着けるのだというすてきな例を示してくれているように感じました。




石井 瑛真(いしい あけみ)
CASA FLINE(カーサフライン)デザイナー・クリエイティブディレクター
神奈川県出身。高校卒業後、大手レディスSPA(製造小売業)ブランドで販売員を経験。その後、2011年に同ブランドのデザイナーに転身。ブランドを変わりつつ、数年間のデザイナー経験を経て、2017年5月よりCASA FLINEデザイナー・クリエイティブディレクターに就任。

CASA FLINE


https://casafline.com/




Text フェリックス清香

Photo kaoaoaori