恵比寿にある「Cosme Kitchen Adaptation」は、「おいしく食べて、心も体も美しくなる」Clean Eating(クリーンイーティング)をコンセプトにしたカフェレストランです。現在、そのディレクションを担当し、メニュー開発や外部とのコラボレーション企画まで手がけているのが谷口かおりさん。
内容を前後編に分けて紹介します。


■ 食事スタイルも、メニュー開発も、固執せずに「適応」していく

鎌田安里紗(以下、鎌田):かおりさんとは、共通の知人が紹介してくれたことがきっかけでお会いしたのが最初でした。かおりさんの、「食材」や「調理法」「食事スタイル」などに対する知識の豊富さに圧倒されて、会う度にいつも嬉しい驚きがあります。今回はそんなかおりさんに、これまで聞けていなかったことも含めていろいろお聞きしたいのですが……まず、かおりさんがディレクションを手がけるお店「Cosme Kitchen Adaptation」(以下「アダプテーション」)について、教えてください。

谷口かおりさん(以下、谷口):私は、ディレクターという役割で、メニュー開発や取扱商品のセレクト、空間ディスプレイなど「アダプテーション」の“お店づくり”全体を行っています。「adaptation」という言葉は「適応」という意味があり、お店には「ヴィーガン」「ローフード」「グルテンフリー」など様々な食事スタイルを取り入れたメニューを用意しています。お店としては「それぞれのスタイルに合わせていく」、そしてお客様は「自分に必要な食事を合わせていく」という意味もあり、「アダプテーション」という店名になっています。また、定期的に外部とコラボレーションしたメニューを提供しており、それも、お店と外部とを適応させていく、合わせていく、という意味で「アダプテーション」としての取り組みと考えています



鎌田:外部とのコラボレーション、色々と取り組まれていますよね。この前お店で食べた「柑橘のリゾット」、とても美味しかったです。

谷口:食べていただいたのですね!ありがとうございます。あれは、愛媛や広島で豪雨被害に見舞われた地域の柑橘類を使ったのですが、お客様からとても好評でした。少しでも傷ついた果物は“B級品”として扱われ、廃棄も余儀なくされる事もあるようですが、そんな商品を少しいただいて食べてみたら、とっても美味しくて。確かに見た目はいわゆる”B級品”になってしまったかもしれませんが、味はとっても美味しいし、もったいなさすぎる!と。それで、通常よりも低価格ではありますが販売してもらうことで、お店でリゾットやその他の料理にアレンジして提供しました。

鎌田:フィッシャーマン・ジャパンさんとコラボされていたこともありましたよね。



谷口:はい。「漁業をカッコよく」をコンセプトに集まった東北の若手漁師集団で、漁師さんの仕事の魅力を伝えていらっしゃいます。いまや、スーパーの魚売り場に並ぶ魚の半分くらいは海外産ですよね。しかも値段を見ると、国産よりも海外産の方が安かったりします。そこには輸送費が含まれているはずだから、普通に考えたら海外産の方が国産よりも高いはずなのに…。少し不安になりますよね。「アダプテーション」としても、より安心安全な食材を提供したい、私たちの食生活を支えてくださる漁師さんたちの力になりたい、活動を支援したいという思いから、コラボレーションを決めました。メニューの裏面にQRコードを用意して、そこから日本の漁師さんや漁業の現状について知ってもらったり、漁師という仕事に興味をもつきっかけがつくれたらいいな、と思っていろいろと取り組みました。

鎌田:確かにスーパーで海外産の方が安いことって多々ありますよね。日常化しすぎていて、なかなか疑問を持ちにくいかもしれない。


谷口:「アダプテーション」に食べに来ていただく10代、20代の若いお客様たちにとって、メニューを手に取り、お料理を通して、そういうことに目を向けて、ふと考えるきっかけになったら、と思っているんです。

鎌田:「アダプテーション」は内装もメニューもとてもおしゃれで、お客さんの多くがおそらく若い女性たちですよね。「食の安心・安全!」「生産者支援!」といった強いメッセージを、そのまま強く出すのではなく、「アダプテーション」流に伝えることで、これまで届きにくかった層にも届いている気がします。日本各地で起きている問題を、身近な「食」を通して伝えることで、いろいろなテーマを発信するメディアとしてお店が機能しているのが、とても素敵だなと思います。



鎌田:話は戻りますが、先ほど、「様々な食事スタイルの人に向けたメニュー」というお話がありましたが、小麦をとる人ととらない人、お肉を食べる人と食べない人が同じ食卓を囲めるのって、素敵なことだと思うんです。そのあたりはこだわりがあるのですか?

谷口:そうですね。まず、世界を見渡すと、食事スタイルの選択肢が複数あるのが当たり前ということが非常に多いです。一方で日本には自分に合った「食事スタイルを選ぶ」という考え方すら根付いていなかった気がします。食材や食べ方について色々な選択肢があれば、「何を」「どんな風に」食べようかな?と一度考えますよね。すると、「食事」という行為が能動的になってくる。もっと能動的に、食べるということを考えてほしいという思いがあります。
また、例えば「小麦を避けている人」と「小麦が大好きな人」は食卓を共にできない、というのってどうなの?と思っていて。その人たちは、「小麦」という点では異なる価値観かもしれないけれど、その他の点では好きなものが同じだったり、とっても気が合うかもしれません。「小麦」ということがネックになって、同じ時間を過ごせないなんて、そんな残念なことはないですよね。だからこのお店では、「ヴィーガン」「ローフード」「グルテンフリー」など様々な食事スタイルに合うメニューを提供しているんです


鎌田:確かに、その通りですね。「食事スタイル」の垣根を超えて、同じ時間を共有できるのはとても豊かなことだと思います。


■ 日々口にしているものは、本当に安全?

鎌田:かおりさんには、会う度にいつも新しいことを教えていただいていていますが、食や健康にそこまで詳しくなったきっかけがあるのでしょうか?

谷口:私の場合は、実体験が全てでして…。私が9歳のときに母が亡くなったんです。年齢にして30代後半、とても短い人生でした。「なぜ母はその若さで亡くなったのか」というのが、そのときからのずっと疑問でした。少し厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、私は、彼女が口に入れると選んだ「食」の積み重ねによって、亡くなってしまったのだと思っているんです。母は野菜よりお肉が好きで、薄味より濃い味が大好きでした。

「さっぱり」より「こってり」、脂っぽいものを好んで食べていました。母が亡くなってとても悲しかったけれど、悲しんで終わるだけでは意味がない。次は父や祖父、祖母かもしれないと思い、姉妹で原因究明のため、成長と共に必死に調べ学び、生活に取り入れてきました。悲しみを乗り越えて学びに変えた今、私たち家族は皆とても健康で仲が良いんです。

鎌田:お母さまは、特別変なものを食べていたわけではないのですよね。



谷口:「“特別変なもの”ではない」と思っているものが実は変なものだらけなんだ、ということが分かったという方が正しいかもしれません。誤った食生活を選べば、平気で30代で亡くなってしまえる世の中になっている、ということがとても問題だと思います。お金を払っても、決して安心安全を買えるわけではない世の中とも言えるかも。わざわざお金を払って、安心安全ではないものを食べているというのが、悲しいけれどいまの日本の現実です。
高校生になった頃から、「食」についての問題意識が高まっていき、自分の足をつかって情報収集をするようになりました。あらゆる講演会やセミナーを探しては、いろいろな場に足繁く通い、たくさんの書物を読み、そのうちに、徐々に自分のなかで判断軸が出来ていきました。それとともに、話を聞くだけでなく、実際にいろいろと取り入れてみて、自分に合う・合わないを試していきました。そのように行動を起こしていくうちに、日本がいかに「食品添加物」で溢れているかが見えてきたんです。じわじわと、でもすごく衝撃でした。それで、まずは自分の生活から「食品添加物」を絶とうと、家中の「食品添加物」が加わったものを廃棄しました。

鎌田:「いいものを取り入れる」よりも「悪いものを摂らない」ことから考え始めると良いと、以前かおりさんが話してくれましたが、とても分かりやすいですし、実践しやすいですよね。


谷口:そうですね。まずは身体に入れてしまった悪いもの、不要なものを徹底的に出す、という方が簡単ですし、今すぐにできることだと思います。日々口にしているものに、一人ひとりがもっと意識して、疑問を持てるようになるといいですよね。それは本当に安全?お金を払う価値がある?身体にとって必要?って。




後編に続く



Text/Photo kaoaoaori