日本には古来より生活に根付いてきた、薬草文化がある。その薬草をお茶にすれば、無理なく続けられる食のアップデートができるのでは、と考えた新田理恵さんは、伝統茶のブランド{tabel(たべる)}や、薬草に関する学びの場「薬草大学NORM(のーむ)」を手がけています。その新田さんに鎌田がインタビュー。
前編では、{tabel}を3ヶ月で始動させた経緯や健康についての新田さんの考え方を紹介しました。後編は薬草に関する学びと交流の場「薬草大学NORM」や新田さんの生活への姿勢を紹介します。



■経験則と科学的なエビデンス、体感の3つを軸にした「薬草大学NORM」

鎌田 安里紗(以下、鎌田):アフリカの伝統医療についての講義もあるという「薬草大学NORM」ですが、具体的にはどういうものなのでしょうか。

新田 理恵(以下、新田):「NORM」は2017年から始めた活動です。{tabel}をローンチ後、北海道から沖縄までいろいろなリサーチに出かけていて、得た情報や人のつながりを私の中だけでためておくのはもったいないと思ったんです。また、自分自身が薬草の勉強をしようと思った時に手段がすごく少ないのも気になっていました。

加えて、農家さんと話をすると、マニアックなものを作っているから孤独を感じている人も多いとわかったんです。違う県の違う薬草でも、同じ薬草という分野で頑張っている人がいるとわかっただけで励みになると言われるような状態だったので、その人たちが会う機会を作りたかったのもあります。私自身もプロダクトを作ること以上に、啓蒙のほうがやりたいと感じてもいたので、薬草大学を始めることにしました。



鎌田:薬草文化を根付かせる活動に一番興味があったのですね。アフリカの伝統医療の研究者の他にはどんな方が講義をなさったのですか。

新田:さまざまな方に来ていただきました。漢方薬を手がける株式会社ツムラで生薬の栽培研究をやってらっしゃる近藤さんや、岐阜県飛騨市で薬草事業を行政としてやっているキーパーソンの野村さん、それからディスカバー・ジャパンの編集長・高橋さん、それから民藝の研究なさっている哲学者の鞍田先生に来ていただいたんです。

民藝運動は、名もなき職人が各地の風土を生かして作っていた生活の道具に、美意識や価値を見出して、それを現代に受け継いでいくというものです。その民藝運動から薬草に関わる人が学べることは多いのではないかと思ったんです。今、みんながWordとかExcelを使えるような感じで、薬草はもともとみんなの生活の中に溶け込んでいたツールですから

鎌田:今は特別なものになってしまったけれど、もともとはみんなが当たり前のように使っていたものということですよね。たしかに民藝に重なるところがありそうです。新田さんは薬草をどこかで専門的に学んだというよりは、実地の中で学ばれてきたのでしょうか。


新田:食養生に関しては管理栄養士として学んできた部分と、薬膳で勉強してきた部分が大きなウェイトを占めています。その後は実地でいろんな方から教わりました。教えてもらった、古くからいわれている経験則と、科学的なエビデンスと、自分の体感の3つの観点で薬草を考えています

鎌田:科学的なエビデンスがないと、薬草の効果は伝えてはいけないものなのでしょうか。

新田:対面でのお話では「○○に効くといわれている」という伝承をお伝えすることはあります。食品を商品として製造している側としては、薬ではないのでエビデンスがあっても法律上効果効能を伝えてはいけませんが、一般論としてお話する場ではエビデンスもお伝えできます。ただし、それも非常に難しいところでもあります。たとえばポリフェノールのような植物の成分は、それぞれの植物に5000種以上あります。その中で人間がわかっているものはほんの一部なんです。人間がわかりきることなどできるのかな、というくらい、星の数ほど植物の成分はあるんです。把握できているものの確かさと、理屈はわからないけれど確かに効いているという事実と、体感のバランスを取る必要があるのかなと感じています。



鎌田:そのバランスに関しては、薬草だけではなく、様々なことにも言えそうですね。現代は科学への信頼が強くて、科学的に証明されていないと不確かなものとして扱われるけれど、科学が追いついていないものや、科学的には把握しきれない領域もあるはずですよね。エビデンスも大事だけれど、もっとそういうソフトな面とか、感情的な面も含めて、伝えていくことを大事にされているということなんですね。


顔が見える関係性を濃くしていくことで生まれる、これからの豊かさ

鎌田:{tabel}で扱っているお茶は全て国産だそうですが、それはなぜなんでしょうか。

新田:薬草文化はもともと日本にあったものです。国内外問わず、様々なところを旅してその土地の伝統医療や薬草のことを調べているのですが、やはり文化になるものは、続けられるように無理なくできているんですよね。その土地で自然と取れる植物を使っていたり、その気候ならではのものになっています。日本の薬草を{tabel}が使うことによって、お茶を飲む人が土地のことを知り、自分たちのルーツを考えるきっかけを提供できたらいいなという思いがあります

また、物を買うことは応援することだと思うんです。それを意識すると少しずつ社会もよくなっていくと思うし、自分の暮らしが豊かになると考えています。都会だといろんなものもあるから迷いますが、一つ一つ選んでいくことで暮らしに芯ができると思うんですよね。

鎌田:日本で作られるもので生活をできる人がいなくなってしまうと、それは廃れてしまって文化が途絶えてしまいますもんね。

新田:そうですね。そして、顔が見える身近なコミュニティが強くなっていくのは、いろんな意味で無理がないんですよね。今は遠くで生産されたものを安く買うこともできます。でも、たくさんのものを得ようとするよりは、ご縁の濃いものを少しずつ増やしていくことのほうが、これからの時代の「豊かさ」だと言えるのではないかと思うんです


鎌田:よくわかります。洋服でも食べ物でも、関係性が近い人が頑張って生み出しているものを手にできるのはとてもありがたいですよね。



新田:今は価値観が多様になっているから、昔のようにみんなが同時期に同じものに夢中になるというような状況は起こりにくくなりました。でも、それはとても自然なことですよね。自然界も、少しずつ皆が違うものを食べているからうまくいっています。もし全てのものが同じものを食べていたら、奪い合いになってしまいますから。価値観が多様化している社会の方が、自然界で考えると本来の姿に近く、安定しているんです

好みはそれぞれ違っていい。また、ストレスが溜まると酸っぱいものが食べたくなるとよく言いますが、西洋医学や薬膳でもストレスが溜まると肝臓を痛め、その場合には酸っぱいものが効くと言われています。好みもその時々で変わるでしょうし、必要なものも変わるんですよね。

鎌田:一律にこれをやっておけばいい、とか、これが正しいというものはないということですよね。私もエシカルファッションの発信をするなかで、「では、どれを選べばいいんでしょうか」といった質問を受けることがあります。でも、どんなに生産背景がよかったとしても、それを着て気分が上がらなかったり、すぐに飽きて捨ててしまったりしたら、それはその人にとって正解とは言い難いですよね。「これさえやっておけばOK」という伝え方の方がわかりやすくて喜ばれますが、「正しさ」ではない形で伝えたいなと思っています。

新田:答えを模索すること自体を、みんなでできたらいいですよね。「薬草大学NORM」がそれを担う場所になればいいなと思っています。様々な人と話すことで、それぞれが一人ではなかなか答えが出せないことに対する現時点での最適解を探していけたら、と。立場や年代、社会状況が変わったりすると、正しさはどんどん変わっていきます変化に適応した「正しさ」を更新し続けるか、もしくは複数の正しさが共存できた方が健全ですよね

自分の体に耳を済ますことの大切さ

鎌田:ところで、この記事を読むなかで、自分の食のことや健康のことを考えるきっかけになる方もいるのではないかと思うのですが、今日からできて、続けていけそうなことは何かありますか?

新田:自分の体って今どういう状態なんだろうと意識することを生活に取り入れてほしいなと思います。多くの人が、家族など自分以外の人のことへの思いやりは強いのですが、自分のことは二の次になりがちなので。今日は体が冷えているな、とか、胃が疲れているな、とか些細なサインを感じて、それに合うお茶を選んでみるのはオススメです。たとえば緑茶は体を冷やすもので、紅茶は体を温める飲み物。それに加えて体質や気になる症状に合ったハーブティを1つ用意して、その日の体に合わせて選ぶのは、難しくないですよね。

鎌田:自己診断をサクッとやる感じですね。

新田:はい。そして、もう一つおすすめなのは、お茶を飲むときになるべく考え事をしないようにすることです。ついつい意識を活発に働かせて、言語で考えてしうので、体がちゃんと感じる時間が少ないんですよね。脳がいろいろなことを思い出すのは止めないようにしていますが、あまり言語化しないで、その時々の空気の温度やお茶の香りに意識を向けて、五感を開いて、ただ受け取るだけの時間があると、心身が調っていきますよ。




鎌田:お茶は本当にいい入り口ですね。お茶は自分のためにとる+αの時間を作るきっかけになりますね。

新田:そうなんです。薬草を使ったお茶は効果効能が強いので、5分、10分で自分の体の変化を感じられるものもあります。そうやって体の変化を感じ取ろうとしていると、自分の本能で必要なものを選べるようになります。甘みやうまみ、塩気や油分に関しては脳がどうしてもほしくなってしまうものなので注意しなければいけませんですが、それ以外で食べたくなるものには、その時々で体が必要とする栄養成分が入っていたりすることも多いと感じています。

鎌田:自分の直感を信じてあげてもいいのですね。新田さんの生活の中で、体の反応に耳を澄ませるようなことは他にしていらっしゃいますか?

新田:管理栄養士ですし、今までは朝ごはんをちゃんと食べる1日3食の生活していたのですが、歴史を見ていくと1日2食だった時代の方が長いんです。なので、今年は胃腸と相談しながら1日2食でやってみています。そして、今私は貧血があるので、消化力を高めるのがいいのではないかと思って、運動を取り入れて、夜寝る4時間前には食事を終わらせようと心がけています。胃に残業させないように、と思って。次の日起きたときにお腹が重たい人は、だいたい夜遅くにお食事をして、寝ている間も胃に残業をさせているんですよ。

とにかく自分の実感は大事にしたいと思っています。薬草の効果も、「○○と言われている」というだけだと確信を持てませんし、ちゃんと納得して伝えられないから、自分の体の反応をみています。このお茶を飲んだら本当に冷えてきたなとか、火傷をしたときにドクダミを塗ってみたら本当に痛みが引いたとか、一つ一つの感覚の積み重ねを大事にしています。

鎌田:実感を積み重ねていく大事さ、よくわかります。なんでもやってみて、食べてみて、使ってみる。いろんな地域に行って、話をしてみる。自分が実際に体験したことや感じたことから語れることが増えると、自分自身がどっしりしてきて幅も広がっていくと思うんですよね。思いついたらやってみるというのは、どんどん推奨したいですね。

新田:失敗したことも含めて、経験って無駄なことは一つもないとよく言われますが、本当にそうだなと思います。必ず糧になりますよね。





気づいたことをもとに、できることを考えて行動を重ねてきた新田さん。その行動力は、お茶を飲みながら一息をつく瞬間に秘密があるのではないかと思わせられるお話でした。



Text フェリックス清香

Photo kaoaoaori