2020年9月に2度のリニューアルを経て登場した「明治 ザ・チョコレート」。ベネズエラ、ブラジル、ペルー、そしてドミニカ共和国と、4つの産地にフォーカスしたチョコレートで、産地によって異なるカカオ本来の香りと味わいを楽しめます。

今回のリニューアルにあわせた新CMに出演させていただいたことをきっかけに、明治さんの取り組みに興味をもった鎌田。サステナビリティ推進部の企画グループ長 山下舞子さんと、カカオ開発部の佐久間悠介さんに、サステナブルなカカオづくりへの想いと知られざるストーリーを伺いました。




食べる側も嬉しい、つくる側も助かる。おいしいカカオづくりのための「明治カカオサポート」

鎌田安里紗(以下、鎌田):お二人は明治さんに入られて長いんですか?

山下舞子(以下、山下):2001年入社なので、今年で20年目ですね。去年の4月からサステナビリティ推進部に異動して、その前は佐久間と一緒に仕事していました。入社してからずっとチョコレートの開発に携わっていて、中身をつくる仕事から、生産ラインにどうやって導入していくかという仕事、そして社歴の大半は商品開発。商品のコンセプトをつくって、どういう商品に仕立てていくか、ということを担当していました。

鎌田:佐久間さんは農園に行かれていたんでしたっけ?

佐久間悠介(以下、佐久間):はい。入社してまずカカオの研究所に入って、4,5年間はカカオの原産地に行き、品質改良プロジェクトに携わっていました。その後、しばらくは山形県にあるチョコレートの工場に行ったりしたあとで、いまは企画開発の部署にいます。


鎌田:いままでに何カ国くらい行かれたんですか?

佐久間:ベネズエラ、ブラジル、エクアドル、ドミニカ共和国、ガーナ……おそらく、7,8カ国くらいですかね。

鎌田:移動だけでも大変そうです(笑)そんな佐久間さんや、山下さんが関わられている「明治 ザ・チョコレート」(以下、THE Chocolate)ですが。今回のリニューアルでは、産地ごとにフォーカスしているのが特徴的です。産地別にテイスティングもさせてもらいましたが、カカオだけでこんなに味が変わるのって本当にすごいですよね。明治さんでは「明治カカオサポート」という取り組みを2006年からやられているとのことですが、これが始まったきっかけは何だったんでしょうか。

佐久間:もともとは、明治としてより良いチョコレートをつくりたいと思ったのがきっかけですね。カカオは大半がアフリカや中南米でつくられていて、ある程度加工された「カカオ豆」の状態で日本に入ってくるんですが、チョコレートの品質って実はカカオ豆にするまでの加工の段階でかなり決まってくるんですね。そこに関与しないで良いチョコレートをつくれるわけがないじゃないか!ということになり、じゃあもう原産地に行って、そこから関わろう、となったのがプロジェクトのスタートです。


山下:研究所のチームでまず現地に行き、カカオづくりってどんなことしてるんだろう?というリサーチから始まりました。活動を進めていくうちに、そもそもカカオをつくるための環境が整っていない場合やいろんな課題があるということがわかってきて。カカオ原産国によって事情は様々で、カカオづくりに必要な支援の内容もそれぞれ異なっていることが少しずつ分かってきて、徐々にその国に合わせた支援というのを発展させてきて、今があります。現在は計8カ国で明治カカオサポートを推進しています。

佐久間:普通は、乾燥したカカオ豆になった状態で商社を介して買い取り、それをチョコレートに加工していくのが一般的です。当然、他社さんと同じカカオ豆が入ってきたりすることはあります。

鎌田:その分個性がつくりにくい、ということですね。

佐久間:そうなんです。本当に差別化できるチョコレートをつくろうと思ったら、より上流、つまりカカオがカカオ豆になる以前の工程に関わる必要がある。

山下:チョコレートのおいしさの5~7割くらいには、原産国で行う作業が関与していると言われています。カカオの実の果肉のなかに入っているつぶつぶしたものが、カカオの種です。カカオ1つあたりに40粒くらいの種が入っているんですが、みなさんが食べられているチョコレートは、その種の中身のところからつくられています。

カカオの果肉ごと、種を、バナナの葉っぱなどで包んだり木箱に入れたりして発酵させていくのですが、この発酵の仕方で、チョコレートにしたときの味が決まるといっても過言ではありません。また、発酵後に日本に持ってきてからの工程も重要で、ローストしてすりつぶし、お砂糖やミルクを混ぜて、チョコレートにしていきます。

明治の創業は1916年、それから10年後の1926年以来ずっと私たちは明治ミルクチョコレートをつくりつづけていますが、カカオ豆からチョコレートにするまでの工程、いわゆる「bean to bar」の技術を磨いてきました。しかし、このカカオ豆自体がどうやってつくられているのかがよく分かっていなくて、もっと上流に、源流にさかのぼって研究していこう、ということになったんです。


鎌田:今回のTHE Chocolateの取り組みは農園からなので……「farm to bar」とも言えますね。

山下:そうですね。チョコレートのもととなる種、そのもととなる実。実のもととなる木、そのもととなる土地。さらにはその土地の環境や、かかわる人。そこまで含めて自分たちで考えていこうとうのが、明治カカオサポートの根本的な考え方です。

鎌田:実際に農園に行ってみて、意外だったところはありますか?

佐久間:一番驚いたのは、カカオ農家さんたちが、自分の育てたカカオがどんな味のチョコレートになっているのかを全く知らなかった、ということですね。日本からいろいろなチョコレートをもっていって、「おいしいチョコレート」とはどんなものかをカカオ農家の人に認識してもらうことからはじめました。

実際に食べてもらって、納得してもらうことで、良いカカオづくりに協力してもらえると思ったので。みなさん、素直に「こっちのほうがうまいな」と驚いていましたよ。味の感覚は私たち日本人とも共通していたようです。


山下:いままでは、商社から買ってきたカカオ豆を研究所で評価をして、良いものだけをフィードバックをしてそれだけ買って……ということをやっていたのですが、それだと現地の人には何がよくて、何が悪いか、きちんと届かないですよね。
なので、研究所のスタッフが直接現地に行って、農家の皆さんと一緒にいろんな実験をする。そこでできたものを日本の研究所に持ち帰って、チョコレートにしてみたものを再び現地に持っていき、いいね、悪いね、というのを議論しながら品質を高めていく、ということをしました。

鎌田:地道なやり取りを重ねられてきたんですね。カカオって、木を植えてからはどのくらいで収穫できて、発酵させるのにはどのくらいの期間がかかるものなんですか?

佐久間:木を植えてから収穫できるまでには、約3~5年かかると言われています。木が成長したあとは、花がついて実がなるまで半年くらい。なので1年に2回収穫できます。発酵の時間は、産地によってまちまちではありますが、基本的には1週間前後でしょうか。そのあとは30年くらい経つと、少し木が弱ってきます。そうしたらまた植え替えて、と。

山下:現地に行ってみると、カカオ農家のみなさんの反応がリアルにわかるし、足りないものとかも見えてきます。たとえば発酵させるための木箱がなくて、適当なビニール袋に入れていたり……それだと味が安定しない、つまりいいカカオにならないんです。

結果、高い値段はつきにくいものになってしまう。適正価格で買ってもらうためには、品質を安定させることが重要なんです。


アフリカなどは特に、生活や労働環境などは豊かとは言い難い国。そこに直接お金を渡しても泡のように消えていく可能性も高いので、経済としてまわっていくように支援していくってことが一番大事だろうと考えていて。

カカオの味を良くしていくこで、適正価格で買ってもらえるようになり、金銭的に生活が安定し、それがゆくゆくは森林破壊や児童労働の抑制になっていく。

そして別の側面から言えば、カカオの味が良くなることで、おいしいチョコレートが増えていく。チョコレートをおいしくしていくことは食べる側も嬉しいし、つくる側も助かる、そういう仕組みになっていけばと思っています。

鎌田:明治カカオサポートで支援している農家さんのカカオは、明治さん以外の会社さんも買われるんですか?

山下:基本は明治が買わせていただいています。明治独自の発酵方法というものを指定していて、その方法で発酵したものは全部買い取ります、としているので。つくったものはすべて適正な価格で買う、とお約束していることが「つぎも明治に売ろう」「明治のやりかたなら続けていける」と信頼関係にもつながっていると思っています。

鎌田:そういうやり方でやりとりをしているカカオは、いまの明治さんで取り扱っている全体のカカオ量のうち、何割くらいなんですか?

山下:全体の3割くらいですね。ちなみに明治としては、2026年までに、それを100%にするということを目指していて、あと5年くらいしかない……!

鎌田:残りが7割ほどということですが、これまでそれが難しかったのは時間とかマンパワー的な問題なんでしょうか?


山下:それももちろんありますが、あとはやはりお金ですね。メーカーとしてはそこがとても苦しいところで。一般的な認識として「板チョコは100円」というイメージがあると思いますが、明治カカオサポートのような、ある程度のコストがかかることをどんどんやっていくと、板チョコを値上げしないといけなくなる。でも、そう簡単にはできないんですよね。いきなり200円にしても売れなくなってしまう。対価を払っていただくお客様の意識も変化していかないと、そういう市場ってできていかないんです。それらのバランスをうまくとりながら、コストを抑えつつ、どうサステナブルにしていくか、っていうところに取り組んでいます。

鎌田:チャレンジングですね。ちなみに、カカオの実1個からは、どれくらいの量のチョコレートがつくられるんですか? 山下:カカオ70%の板チョコ1枚、です。

鎌田:なんと!ちょうど1枚。


山下:THE Chocolateは累計で約9000万枚売れているので、つまり、これまで約9000万個のカカオが農家のみなさんの手によって、ひとつひとつ収穫されてきたということになりますね。


鎌田:非常にわかりやすいです!カカオって手じゃないととれないんですか?
山下:そうですね、基本手で”もぎ”ます。

佐久間:カカオって不思議なもので、熟しても果実が落ちてこないんですよ。なのでどうしても、手で”もぐ”ことになりますね。中身を取り出すのも基本は手作業です。

山下:このゴツゴツした見た目的に、効率的にカットできそうな感じもあんまりしないですよね。それに、椰子の実みたいに高い所にできるものもあるので、収穫するのも一苦労です。




「こんなに頑張って取り組んでいることを、どうして価値にできないんだろう」

鎌田:板チョコ1枚100円という一般的な認識があるなかで、THE Chocolateは倍の値段。「新しい市場をつくろう」くらいの想いと勢いではじまったのですか?

山下:そうですね。1枚200円の板チョコなんか絶対売れないよ、って言われたんですよ。でも、それでもつくるんだ、って意思を込めてやりました。研究所、営業、工場、現場……関係部署みんながその気になってくれて一緒に取り組めたので、いまここにこの商品があるんだ、と思います。

鎌田:山下さんはずっと関わられているんですよね。どうやってそんな強い気持ちと想いを持ち続けられたのでしょうか。

山下:そうですね……佐久間を含めて、研究所の専門チームが明治カカオサポートの活動を開始したのが2006年くらいのことだったのですが。当初から、取り組んでいる人たちはとても一生懸命やっていて、会社の将来にとってすごく重要な活動をしていたのですが、当時は全く「会社ごと」になっていなかったんです。活動自体が社内であまり知られていなくて。というのも、会社のなかでのいち研究活動のような立ち位置で、最初の10年くらいはそこから商品が生まれるわけでもなく、ただ費用をつぎ込んでいるだけの状態だったんです。

鎌田:投資していた時期だったんですね。

山下:当時は投資という感覚でもなかったような気がしますね。

佐久間:我々研究所のチームは、単純に、カカオの品質がよくなればいいんだと、それだけを信じて取り組んでいたんですよ。品質はたしかに少しずつよくなって、そのよくなったカカオ豆はしれっと明治ミルクチョコレートなどに使われていました(笑)。

山下:一生懸命活動している様子を間近で見ていた身として、良い取り組みがきちんと活かし切れていないことに対して「なんかこれって変だな」とずっと思っていて。

「最近、カカオがこんなにいい品質になってるんだよ!」という声を研究所からも聞くようになった頃からは特に「すごく良い取り組みなのに日が当たらないのは、もったいない!他社さんでは簡単に真似できないようなこと、こんなに頑張って取り組んでいることを、どうして価値にできないんだろうか」と強く思うようになりました。


この取り組みを、明治として全面的にやるんだ!と主張することが大事な気がして、初代のTHE Chocolateをつくることにしたんです。結果、研究所でずっとそのチームを引っ張っている方からは「みんなに自分たちの活動を知ってもらえることになったのがすごく嬉しい」と言ってもらえて。その言葉を聞けただけでもよかったかなと思っています。

鎌田:社内にもともとあった取り組みを、価値に変えたんですね。

山下:それが一番の功績だったな、と自分では思っています。

鎌田:初代のTHE Chocolateの反響はいかがでしたか?

山下:それが……かなり苦戦しました。鳴かず飛ばずで。初代から「THE」という魂を込めたネーミングにはしていたのですが、カカオに対するここまでのこだわりを、消費者にきちんと届けることができなかったんです。その反省も生かして、パッケージなどを見直して2代目にリニューアルしたのが2016年でした。

鎌田:2代目はみなさん知っていますよね。「コンビニに売ってるおしゃれなチョコ、おいしいやつだ」って。そして今回のリニューアルなわけですが、そのきっかけはなんだったんですか?

佐久間:2代目のTHE Chocolateも、最初こそ好調だったものの、そのあとの売れ行きは落ち気味だったんです。その原因として、スタイリッシュなパッケージのイメージが先行しすぎて、結局品質のこだわりがきちんと伝わらなかった。カカオにこんなにこだわりポイントがいっぱいあるんだよ、というのを届けきれなかったんです。それでいろいろと考えるなかで、ふとワインとかコーヒーなど他の嗜好品を見渡したときに、「産地」って大きなフックになるな、と。

明治カカオサポートとしても産地にこだわって直接現地に赴いていますし、産地によって味も異なる。そこを全面に押し出すかたちで再度リニューアルしてみたい、という思いで取り組みました。

鎌田:コピーも分かりやすいですよね。「ワインでいうぶどう」ってまさにそうだな、と。チョコレートは日常的に食べているけど、そもそも「原材料はカカオ」って意識する人はまだまだ少ない気がしていて。より多くの人にチョコレートはつまりカカオである!ということを知ってもらって、楽しんでもらうのが目的ということですね。

佐久間:そうですね。カカオって産地があるんだ、農産物なんだ!ってことを知らない人も多いと思うので。「産地」というところからから「農産物」を連想してもらえたらいいかな、と思っています。




コロナで行けない、でも関係性があるからこそ

佐久間:これまで、現地に行って直接対話をして、というのが肝要だったんですが、コロナでそれもできなくなりました。そんななかでも、どうやってうまく途切れずにコミュニケーションを取り続けていけるか、というのがいまの課題だと感じています。設備が整っている産地とはオンラインでの会議などもできているのですが、そうではない小農家さんをどうケアしていくか、正直とても不安があるところです。


いまは、現地に住んでいる仲介の人に、農家さんのところまで行ってケアしてもらっています。収量という点では、コロナの影響はそこまでなく、これまで通りの量がきちんと穫れているので、そのあたりは心配ないのですが。この状況が当たり前になるなかで、どういう関わり方をしていくのか、自分たちが変わらなきゃいけない部分もあると思っています。

鎌田:やっぱり、行かないとわからないこともありますか?

佐久間:そうですね。オンラインの距離感では聞き出せない現地の人の率直な意見だったり、品質も直接見て確認したかったり。チョコレートを直接渡すことも今はできないので。日々の密なコミュニケーションは難しいですが、なんとかつぎのやり方を模索しながら、というところですね。

山下:コロナの状況がいつまで続くか、心配なところではあるものの、これまで10年以上かけてコミュニケーションをとってきた、それゆえの関係性があるからこそ、こういう事態でも途切れずに続けていけているというのもあるんじゃないかなと思っています。


正直、農家さんからしたら、やっぱりカカオは高く買ってもらえた方が嬉しいはずなんですよ。直接会えない間に「あの会社が高く買うって言ってるから、あっちに売っちゃえ」ってことも可能性としてはゼロじゃない。そういうなかでも「明治に売るよ」と農家さんが言ってくれているというのは、積み重ねてきたものがあるからこそだと思うんです。本当に、ありがたいことです。

鎌田:そういう時間の積み重ねも、大切ですよね。サステナビリティって、一朝一夕にはいかないなぁと感じます。

山下:「サステナビリティを考えることは、儲からないから(企業活動として)サステナブルじゃない」とよく言われますが、一昔前のCSRだと、たしかに一方的な社会貢献みたいなイメージですよね。売上の一部を支援金に回します、みたいな。


もちろん良い側面もあると思うのですが、たとえばその企業の売上や利益がなくなったり、企業に体力がなくなったら終わってしまうことで、それこそサステナブルじゃないと思っています。そうではなくて、いま私たちが取り組むべき「サステナビリティ」は、企業としても適正な利益を得て、それを社会に還元していくという仕組みのこと。


その仕組みをサステナブルなかたちでデザインしていく必要があるんですよね。決して慈善事業ではないんです。利益を得るための商材があって、適正な利益を上げなければ続いていかない。

鎌田:そうした仕組みを考えることが、結局は、関わっている農家さんのためにもなるんですもんね。

山下:そうなんです。ただ、やっぱり現地で農家さんを見ていると、「もっとこうしてあげたい」って気持ちは出てきます。でもお金をかけるばっかりはできないので、すぐにできるわけではない。そういうところは、企業だからこそのジレンマとして感じるところかもしれないですね。




企業が変わっていくために、消費者も一緒に変わっていく

鎌田:「明治グループ2026ビジョン」というもののなかで「サステナビリティビジョン」ということを打ち出されていますね。

山下:はい、そうなんです。THE Chocolate に関して言えば、明治の役割というのは、カカオ農家さんから適正な価格で購入し、お客さまに適正な価格で届けていく、その仲介をする、ということです。

お客さまが「おいしいな」と思って食べていただくことが、実は農家支援につながっている。そうやって、すべての方々を笑顔にしていくというのが、ものづくりの考え方の基本にあるべきだなと思っているんです。


いままではそれを真正面から宣言したことはなかったけれど、チョコレートを100年つくりつづけている会社として、掲げていくことになりました。そういうわけで、2026年までに、取り扱うカカオは100%サステナブルなものになることを目指しています。

鎌田:カカオだけではなくて、パーム油とかも変えていくんですよね?

山下:よくご存知ですね!実はそうなんです。パーム油という、いろいろな食品に入っている植物油脂なんですけど、カカオよりも早くから強制労働が問題になっている原材料で。

明治としてまずできることとして、森林破壊や強制労働がない農園からつくられた、という認証を受けたパームに100%切り替えていく、ということを掲げています。現状でまだ10%くらいなんですが、2020年度中には60%くらいになる予定です。


鎌田:思ったよりも短期間で実現できそうなんですね!ということは、RSPO認証(*1)のパーム油って、量として市場にけっこう出回っているということなんですか?

山下:一概には言えないのですが、「どこまでトレースできるか」によって認証のグレードが分かれていて、ある程度広く認証するもの(認証の基準が比較的ゆるいもの)については、市場にはけっこう量がありますね。

明治としても、まずはそれに切り替えていくということになっています。厳しいグレードのものをつきつめていくのが理想だとは思うのですが、それをしていると、ものすごく時間がかかってしまうので。


まずは、もう少し幅広く捉えたときの「問題がない」ものをつかっていく予定です。それがいわゆる「マスバランス(*2)」というものですね。ただ、ゆくゆくは、よりトレーサブルなグレードの方へ行きたい。

というのも、サステナビリティを考えていくときに、究極的には「トレーサブルじゃないとサステナブルになっていかない」と感じているので。

鎌田:私は服に関するサステナビリティについて考える機会が多いですが、すごく理解できます。服も、その素材であるコットンまで、それをつくる農園まで……って追っていくこと自体がすごく難しくて。いま、各社さんも苦労されている点だと思います。でも結局はきちんと追えないと、その農園で何が起きているのかわからない。やっぱりトレーサブルじゃないとサステナブルって言いづらい、ですよね。

山下:そうですね。なので目指すところはそこにあるんだ、って視点は置きつつ、少し時間をかけながらそこに向かってステップアップしていきたいと思っています。

鎌田:いま社会全体で「サステナビリティ」とか「SDGs」に取り組んでいかなくてはという認識が広がってきつつあり、切り替えていくタイミングだと思うんです。そんななかで、特に大手の企業さんは、いきなり全部変えました!って実際はなかなか難しいんだろうなと思っていて。全体のバランスの中で現段階では諦めざるを得ないことなども出てくるのではないかと想像するのですが、そのなかでも「ここだけは大事にしよう」というポイントってなにかありますか?

山下:歩みを止めない、一歩踏み出す、ということでしょうか。100%の満点回答じゃなくても、まず何を考えているか、ということを表明することが企業として大事だと思っていて。表明したからには、じゃあ何から始めますか、っていうことになると思うんです。


日本の企業は、欧州や米国などに比べるとサステナビリティの考え方ってまだまだこれからだと感じています。サステナブルな活動は、どうしてもそれなりのコストがかかる。「コストをどうするんだ」「利益減っていいのか」みたいな議論は、絶対起こりますよ。


そういう議論を重ねていって、コストも含めて「サステナブルであること」が企業価値になっていく、そういう企業じゃないと今後残らない、というように企業全体として考え方を転換していかないといけない時期だと思いますね。なので、まずは「一歩踏み出す」。

鎌田:佐久間さんは、農園も行かれていて、やりたいこととできることの、理想と現実のギャップとかはあったりしますか?

佐久間:農薬の問題とか、本当はゼロにしたほうがいいとは思うんですけど、そうはいかない現実もあって。農薬を使わないでくれって無茶なお願いをするよりは、適正につかっていきましょうよ、と歩み寄ることが大事なんだろうなぁと思っています。ある程度柔軟性をもって、いい落とし所を見つけていかないと、というのはいつも考えていますね。

鎌田:たしかにそうですね。無農薬に切り替えていく過程でのサポートなどもないと、農家さんとしてはなかなか簡単に切り替えられるものでもないですよね。

山下:理想論だけだと食べていけない、というのはどんな場面でも必ずありますよね。企業としては、そこに技術をもって応えていくのが一つのやり方かなと思っています。ある程度科学的なアプローチも必要かなと思うので。

鎌田:「サステナビリティ」を考えていくと、できていないところとか、もっとこうしたいのに、とかどんどん出てきます。でも実際には、現実と折り合いをつけながら具体的にできることをやっていかないといけないですもんね。

山下:ちょっとこだわっているような商品とか、課題解決に関わっているような商品って最近いくつか出てきていますけど、少し値段が高くなったときに、「なんでその値段を払わなければならないのか」というふうに多くのお客さまは感じるはずで。それをよしとして、価値としてお金を払ってくださるお客さまを増やしていくことが、みんなが笑顔になっていくためにも必要なのかなという気がしますね。

鎌田:服もそうですけど、一度安い価格帯のイメージが定着してしまったら、そこから値段が上がったときに「なんでそんなに高いんだ?」って感じてしまいますよね。

でも、チョコレートひとつとっても、生産過程を見ていくと、「こんなに手間がかかってたった100円では続けていけないんじゃないか」って思ったりします。かといっていきなり500円にしても売れるわけじゃないし……


どんな風にできて、どんな風に手がかかるのか、より多くの人に知ってもらえるといいですよね。私、いま家でコットンを育てているんですけど。

山下:家でコットンを育ててるんですか!?

鎌田:はい、そうなんです。「服のたね」という企画をやっていて。50名くらいの参加者の方々と、各々の自宅のベランダや庭でコットンを育てて、収穫したものを集めてみんなで紡績工場へ行き糸に、その糸を持って生地工場へ行き生地にしてもらって、みんなでデザインを考えて服をつくる、ということをやっています。
その工程を体験することで、買い手の立場からだと見えない、いろいろなプロセスとか苦労があることが分かる。チョコレートもやっぱり同じで、つくりかたのイメージが普通はなかなか持ちづらいですよね。身近にカカオが生息しているわけでもないですし。

山下:コンセプトスペース「ハローチョコレート」をつくったのもまさに同じ理由で、チョコレートづくりの背景をお客さまに知ってもらいたかったんです。日本のみなさんって、板チョコ=工業製品みたいなイメージをもたれている方も多いんですけど、まさかこんな無骨なフルーツから長い工程をかけてつくられるものなんだって思わないと思うんです。


明治の役割として、背景に隠れている、見えていない部分をちゃんと知ってもらうことで、多くの人が原産国の課題に目を向けるアプローチになるだろうと思っています。

鎌田:企業さんが変わっていくためには、消費者も一緒に変わっていく必要がありますね。

山下:そうですね。一方通行では成り立たないことだと思います。




「サステナビリティ」はオプションではなく本業そのものを持続可能なものにすること

鎌田:明治さん社内での「サステナビリティ」ってどれくらいの認知度でしょうか?「サステナビリティビジョン」のような動きをみなさんどう受け止めていらっしゃるのかな、と思って。

山下:ここ最近、急にみんな言い始めた感じがしますね。ホールディングス全体を束ねてサステナビリティを推進していく、となって「サステナビリティ推進部」が正式に「部」となったのが去年の10月です。そして今年の6月に、チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)という役割が新たにできました。そういう会社としての発信もあって、キーワードとしては浸透してきている実感はあります。


ただ、なかには、自分の仕事とそれを結びつけることに苦労している姿も見かけたりしていて。見方によっては、いま各々が取り組んでいる仕事が社会課題の解決につながっていると言うこともできると思うんです。それをうまく見つけて、気づいてもらうきっかけとなる働きかけをしていきたいなと思っていますね。


そうやって、仕事に携わる人ひとりひとりの意識が変わってきて、本気で取り組めば、新しい市場をつくることだってできないことはないと思うんです。

鎌田:「サステナビリティ」とか「SDGs」とかって、プラスαで、オプションでなにかやらなきゃいけないみたいな印象になりがちですよね。本業と別で社会にいいことやらなきゃ、みたいな。でもそうじゃなくて、本業そのものをどうより持続可能なものにしていくかを考える必要がありますよね。

山下:本当にそうですよね。少し解釈し直すとか、視点を変えてみるだけで、全然見える世界が変えられると思います。それに、たぶんプラスαだとやらないですよね。単純にコストになっちゃうので。

鎌田:消費者側の視点でも、「サステナビリティ」とか「エシカル」っていうと、何か新しい取り組みを付加するというイメージが強い気がしていて。そうじゃなくて、毎日買ってるものをどんな風に選ぶかとか、日々やっていることを、できる範囲でよくしていく、ということがの重要なポイントなはずだから。

山下:先程あった「認証」にも段階があるように、買う側にも選べる段階みたいなものがあるといいんだろうなって思います。「100円のチョコか500円のチョコか、どちらかを選ぶ」以外の選択肢というか。


例えば100円の板チョコが2つ目の前にあったら、取り組みとしてちょっといいことをしている方を選ぼう、とか。500円は無理だけど120円のチョコなら買えるな、とか。今後は、そういう「選べる段階」がどんどん出てくるんじゃないかなと思っています。

佐久間:そんな未来が来るのが楽しみですね。THE Chocolateを開発する身としては、お客さまにもっとカカオの産地ごとのおいしさや差を感じていただいて、「わたしはこの産地が好き」「私はこっちの産地」と、カカオ産地をみんなが語り合ってくれる時代が来たら嬉しいなと思います。

(*1)RSPO:「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」。パーム油をめぐる問題と、持続可能なパーム油の生産・利用を目指す国際的な認証制度のこと。
(*2)マスバランス:森林破壊、児童労働、強制労働がない、と確認されたエリアでつくられたパーム油=「認証農園からの認証油」が、流通過程で他の非認証油と混合される認証モデルす。物理的には非認証油も含んではいるが、購入した認証農園とその数量は保証される。



Text:kaoaoaori

Photo: Martineye