日本には350種類以上の薬草がひっそりと生えている。管理栄養士で薬膳の勉強をしていた新田理恵さんはその事実に気づき、伝統茶のブランド{tabel(たべる)}や、薬草に関する学びの場「薬草大学NORM(のーむ)」を手がけています。
そんな新田さんに鎌田が連絡を取ろうと思ったのは、著書に挟まれた手紙に「健康だけがいいと思っているわけではない」と書かれていたから。その手紙に込められた真意や、新田さんの生き方への姿勢をお聞きしました。内容を前後編に分けて紹介します。



■わずか3ヶ月で生まれた伝統茶のブランド{tabel}

鎌田 安里紗(以下、鎌田):Little Life Labでは「ちいさなことこそ大切に」というコンセプトを掲げ、すてきなものづくりやおもしろい働き方をしている方にインタビューをしています。そうした方々は、自分のちょっとした気づきや、ふと浮かんだ疑問をちゃんと大事にしているなと感じているからです。

新田さんは今、伝統茶のブランド{tabel(たべる)}や、薬草に関する学びの場「薬草大学NORM(のーむ)」のお仕事をされていらっしゃいますが、何がきっかけだったんでしょうか。

新田 理恵(以下、新田):もともと管理栄養士で食と健康の活動を続けているのですが、食生活のアップデートをどうやったらできるのだろうか、というのがずっと疑問でした。「野菜をこれだけ食べなきゃいけない」と頭ではわかっていても、実践し続けるのはなかなか難しいんですよね。でも、お茶って手軽なんです。スキルも設備も時間もいらない。お湯なら誰でも沸かせるし、お茶は水出しでもできますし、ちょっとした隙間時間に飲めます。食生活を変える入り口としていいなと思いました

薬草に興味を持ったのは、管理栄養士になった後で薬膳の勉強をしたことがきっかけです。薬膳を学んではすの葉茶や菊の花茶を生活に取り入れるようになったのですが、手に入るのは輸入のものばかり。輸入のものも良いものはたくさんあるとは思うのですが、栽培方法などが書かれていないので、産地や無農薬にこだわりたい人たちが二の足を踏んでいるようなところがありました。


鎌田:わからないというのは不安ですもんね。

新田:そうなんです。でも、日本でこんなにハスも生えているし、何かないかなと思って調べたら、日本には薬草文化というものがあったとわかったんです。好奇心がわいたので、ハスの農家の方に会いに行ってみようと思ったのが4年前のGWでした。その農家で作っていらっしゃったのが偶然、在来種のハスで。葉っぱをもらって焙煎したら、甘みがあって、ちょっと金木犀のような香りのある優しい、とてもおいしいお茶ができたんです。その旅では、薬草で町おこしをやっている佐賀県の玄海町に行き、町に何軒か残っている薬草工場にも回らせていただいたんですが、ふと気づいたら、材料も揃った、作れるところにもご縁ができた、あれ、もうすぐプロダクトにできるじゃない、という状況になっていたんです。

鎌田:商品開発をしようと思って旅を計画したわけではなく、単純に生産者さんに会いに行こうとしていたんですよね。



新田:そうなんです。「無農薬 れんこん」と検索して会いに行っただけなので、幸運でした。しかも、薬草工場の方も100個くらいから作れますと言ってくださったのですが、ちょうど友達から結婚式の引き出物に100個くらい何か作れないかなと相談を受けていたタイミングと重なったんです。これはもうやろうかなと思いました。

加えて、同時期に「食」をキーワードにしたクラウドファンディングをやらないかという声をかけてもらっていたんです。性格的に合わないと思っていたのでやるつもりはなかったんですが、薬草文化をみんなの当たり前にするためには、単にブランドを育てるだけではなく、仲間や当事者となってもらうのが一番だと思いました。そこで、クラウドファンディングで少し資金調達させていただいて{tabel}をローンチしました。それが4年前のことです。九州に行って、資金調達をして商品ができるまで、3ヶ月でできました。



鎌田:作るつもりのなかったところから、わずか3ヶ月で。導かれていますね。すごい行動力ですが、その源にあるのは何なのでしょう。そもそも食のお仕事を始めるきっかけはどんなことだったのですか?

新田:実家が市場のなかのパン屋をやっていたので、周りに食関係の仕事をしている人が多かったんです。自分自身も食べることが好きだし、楽しくておいしくて、コミュニケーションの媒介になると言う、「食べる」と言う行為の良い面をたくさん知って育ちました。

食べ方を選ぶことで、自分の体がどうなっていくかをある程度選ぶという面もある。それは自分の死に方を選んでいることにもつながっているんですよね。「食」ってとても大事だなと思っていたところに、父が糖尿病になったり、親友が過食と拒食を繰り返していることを知ったんです。「食」は大事だからこそ、扱い方を間違えると凶器になってしまいます。「食」というものは「人を良くする」と書きます。それを体現できるようなお仕事ができたら良いなと思って管理栄養士の道に進みました。




「病と結婚式をあげる」。アフリカの伝統医療から考える、病気との付き合い方

鎌田:新田さんのおっしゃる「人を良くする」は、「健康にする」だけを指すわけではないのだろうと思いました。新田さんの書籍『薬草のちから: 野山に眠る、自然の癒し』を購入したのですが、挟まれていた手紙に「健康な状態だけがいいと思っているわけではなく、健やかではない時も支え合える社会の方がもっと健全だと思っている。回復とは元通りに戻ることではない。病気になった自分とも折り合いをつけていくことが大事だ」という趣旨のことを書いてくださっていたので。それを見て、すぐにご連絡をしたんです。



新田:「健康」とは、WHOの定義通り、心の健康と体の健康に加え、社会的な健康も揃っている必要があると思うんです。でも、日本だと個人や家族が抱え込んでしまうんですよね。病気になってしまうと、「健全ではないと烙印を押された」とか、「以前とは違う自分になってしまった」と捉えて心に傷を負ってしまう人もいます。でも、アフリカの伝統医療を研究している方に、全く違う病気へのアプローチを教えてもらいました。

たとえば、アフリカのある地域では、子供が風邪にかかって高熱を出している場合、伝統医療の従事者がその子のお父さんに「最近何か悪いことをしませんでしたか」と聞くんです。すると、聖人君子ではないから、お父さんも何かに思い当たってしまう。笑 そこで伝統医療の従事者がお父さんにちょっと罰のような儀式をやるんですね。たとえば熱湯をちょっとかけるとか。おおごとなので、子供もお母さんも「お父さん頑張って」と応援するんです。そうこうしているうちに、数日たつので、風邪の熱は下がってしまう。でも、それはお父さんが頑張ったからだということになって、理屈は通らないけれど家族の絆は回復するんです。

鎌田:回復すべきなのは、病気だけではないのですね。

新田:そうなんです。回復すべきとは考えていないようなアプローチをとる人たちもいます。アフリカのある地域では、病と結婚式を挙げるそうです。まずは病気の対策として祈祷を7日間くらいかけてやります。最初はハーブを使った薬湯やスチームに入ってケアをするのですが、最終日に病気になった人に精霊の名前を言わせるんです病気と自分とは別人格なんですね。そしてその後に、その精霊と病気になった人が結婚式をやるんですよ。村人全員が参加して、本当の結婚式のように歌ったり踊ったりして、その精霊を社会全体で歓迎します。そして、病気になった人もこの病気と一緒に生きていくと決意するんです。

病気になったときには、なかなか元の状態に戻れないし、アレルギーなどのように完全には元に戻れないこともありますよね。となると、病気に寄り添って生きていくことが必要です。それを村人全体で結婚式をやることによってすすめていくのって、すてきだなと思います。日本の医療に足りない部分ですよね。



鎌田:日本だと悪いところを治さなければ、という発想が強いですよね。でも、その地域では、病気はその人と別の存在として認めてしまうんですね。

新田:そうなんです。この肯定感はかけがえがないですよね「私は病気になってしまった、もうだめだ」と思ってしまうとどんどん負のループに入ってしまいますから。「医師」への信頼感やプラシーボ効果の使い方を含め、アフリカの伝統医療は奥深さを感じます。こういった伝統医療のことも含めて考えていきたいと思って、「薬草大学NORM(のーむ)」ではアフリカの伝統医療の研究もされている杉下智彦先生を講師としてお呼びしています。

鎌田:おもしろいですね! 「薬草大学NORM(のーむ)」を話を次にお聞かせください。


後編に続く


Text フェリックス清香

Photo kaoaoaori