■「エシカル」が物語になったら?

鎌田安里紗(以下、鎌田):今年の6月、なんとも愛らしいクマが主人公の絵本『 まんなかのロロ 』を発売しました。発売してからたくさんの人に絵本を読んでもらって、嬉しい感想もたくさんいただいて。改めて、今回一緒に絵本をつくったいわーなまいさんとこの場でお話しさせてもらうことになりました。今日はよろしくお願いします。


いわーなまい(以下、いわーな):よろしくお願いします!早速だけど、「絵本づくりをしたい」と最初に声をかけてもらったとき、ありちゃんはどんなことを考えていたの?

鎌田:これまで長らく「エシカル」とか「エシカルファッション」に関する発信をしてきたのだけど、「エシカルって結局なんですか?」と聞かれることがすごく多くて。インタビューを受けたり、講演などでお話しさせてもらったり、そういう「きちんと人に伝える場」では、やっぱり自分なりの考えとして「私はこう思います」というのをひとまず伝える必要があるんだよね。でも一番伝えたいのは「ただひとつの答えはありません」ってことで。「エシカル」って直訳すると「倫理的な」とか「道徳的な」って意味になるけど、倫理も道徳も人によって違うもの。その人がいまいる環境や、いままで何を考えてきたかによって、出す答えも変わるものだから、結局ひとりひとりが考える機会が必要になる。でもインタビュー記事を読むときや講演を聞きに行くときって、どうしても「答えを受け取りに行くモード」になるよね。だからそれとは違う「自分で考えて答えを見つけるモード」になってもらえるような、これまでとは違う伝え方をしたいなと思ったの。


自分のなかでじっくり考えをふくらませる時間ってどんなときかな?と考えたとき、絵本を読む時間ってそれに近いかな、って。絵本を読むときって、絵とことばで繰り広げられるお話を進んでいきながら「ここで作者が言いたかったことってなんだろう?」って考える。誰かがつくったからには何かしらメッセージがあるはずで、でもそれが明確に書かれていないことが多いから、読む人が感じ取ろうとする。その「輪郭がくっきりしないものを自分から掴みに行こうとする」感覚って、私が「これまでとは違う伝え方」によって引き起こしたい感覚そのものなんだよね。「エシカル」の考え方を絵本にしたらどうなるんだろうってすごく興味が湧いた。大学の同級生でもいわーなちゃんが以前につくっていた絵本を買わせてもらっていて、その作品がとても好きだったから、いわーなちゃんにつくってもらえないかな、と思ったの。


いわーな:嬉しい。

鎌田:そうして相談させてもらったのが2018年6月のことだった。

いわーな:もう2年も前のことなんだね。ありちゃんからこのお話をもらったとき、社会人として3年ほど経った頃で。普段はコピーライターとして広告のお仕事をしているのだけど、ちょうど自分の今後について立ち止まって考えていた時期だった。広告の仕事っていろいろあるけど、基本的には大企業が大量に生産したものを、大量に消費してもらうにはどうしたらいいか、を考えることが多いの。ありちゃんの発信してきた「エシカル」とは、言ってしまえば正反対。その中で、自分の仕事で誰かを幸せにできるイメージが持てなくなっていたの。仮に自分のつくった広告がきっかけで何か商品を買ってくれる人がいても、その人はきっと1週間後には、それを買ったことすら覚えてないような……そういうサイクルを助長していくことって正しいのかな?って、自問自答していて。もっと「思い入れのある消費」というものを考えて提案していきたいと思っていたとき、ちょうどありちゃんから声をかけてもらったの。これは自分の考えを深めるためにも、絶対いっしょにやりたいなと思ったよ。

鎌田:そんなタイミングだったんだね。物語や絵本をつくりはじめたきっかけって何かあるの?

いわーな:一番はじめに『なにかご不明な展』という冊子をつくったのは、社会人2年目が終わったとき。当時はまだ新人だったから仕事に慣れることに必死で、朝も夜も仕事のことばかり考えてた。そうしたらいつの間にか「自分が好きなもの」がわからなくなっちゃって……このままじゃまずい、「自分は何が好きで、何を伝えたかったのか」を一度立ち返って考えなきゃ、と思ってつくったのが『なにかご不明な展』だった。

鎌田:いわーなちゃんのエッセイやイラスト、それから、まちなかで見つけた面白い写真が載ってるんだよね。本当に好き。

いわーな:嬉しい、ありがとう。これをつくる過程で、私は目の前のものを捉え直して「自分なりの正解」を見つけるのが好きだし、そのおもしろさを伝えたいってことに気がついたの。それから、古代ローマの人の考え方がすごく好きだったな、ってことも思い出した。

鎌田:古代ローマ???

いわーな:科学が発達する前だから、いまでは常識になっているあらゆる仕組みが何もわかっていない時代。そんな頃に、人々は「カメレオンは空気を食べているにちがいない」とか「琥珀は木の涙だ」とか考えていたの。アリストテレスとかも本気でそんなことを考えていたんだよ。自分の観察眼と想像力だけを頼りに、目の前の点と点を頑張って結びつけた結果、すごく変だけどなぜか愛くるしい「正解」が生まれている。それってすごく面白いし、可愛いし、なんだかとっても豊かだなと思って。私も含めていまこの世の中に生きる人たちって、いろんなものが解明されていると思い込んでいるし、当たり前だと感じる現象も人生を重ねるたびに増えていく。でも、そういう「わかりきったこと」が増えていけばいくほど、自分で考えるチャンスやタイミングを見失っちゃう。それは、すごくもったいないことだなぁって。科学的に正しいかどうかは一旦置いておいて、目の前のことを「これはこういうことなんじゃないか?」と考えてみるのってすごく面白いと思うんだよね。

鎌田:いわーなちゃんって、日常のなかで出会ういろんなものに対して、自分なりに問いを立てて、自分なりの答えを見つけて、そのプロセスを楽しむってことを常にしてるよね。

いわーな:そうだね、それを考えてる時が一番たのしい。そういう考え方とかものの見方を積み重ねていくと、身の回りの世界に愛着が湧いてくるんじゃないかなと思ってる。

鎌田:こと「エシカル」となると、実際に世界で起きている問題があるから感覚だけで捉えていてもいけないんだけど、かといって数字やデータだけでもいけないと思っていて。たとえば服を作るときの水と二酸化炭素の排出量がそれぞれどのくらいで……とか、どうやったらそれを減らすことができて……とかは、データで考えていくことができる。でも倫理観とか道徳観とかは個人個人が考えられる余地がある部分で、だからこそ、そこから生まれてくるアクションってすごく多様なはずなの。……なんだけど、数字やデータを用いたいわゆる「説明」からその話に入ると、どうしても「客観的な答え」を探しはじめちゃうんだよね。だからこそ今回この「絵本をつくる」という試みを通して、いわーなちゃんが世界を見るような目で、私が問題だなと思っていることや大事だと思っていることを見てもらって、それが物語になったらどうなるんだろうって思ったんだ。どんな物語が生まれるのか、誰よりも私が一番、それを見てみたかった。



■「答えなんてない」ことを伝えたい

鎌田:いざ絵本をつくるってなったとき、私のなかに「これを言いたい、こんなお話にしたい」という気持ちはあんまりなくて、ストーリーづくりからいわーなちゃんにお願いすることにしたんだよね。

いわーな:世に出ている、ありちゃんのあらゆるインタビュー記事とかツイートを全部読んで、ひたすら鎌田安里紗研究をしたなぁ。

鎌田:そして「鎌田安里紗が伝えたい3つのメッセージはこれです!」ってプレゼン資料にまとめてくれて。最初は3つ、お話があったんだよね。最終的には、一番深くて、ある意味一番わかりにくいものが残って、いまのお話に落ち着いた。

いわーな:そうだね。でも3つあったお話すべてに共通して取り入れた、ありちゃんならではの姿勢があったよね。ひとつは「ものを選ぶ・買うという行動を通して、社会の問題や自分自身と向き合う時間」を大切にすること。もうひとつは、どんなときも「自分なりに考え続けることが大切」だと伝えることだね。「エシカル」とか「サステナブル」とか、複雑な問題になればなるほど、人はわかりやすい答えとか、これさえ知っていれば大丈夫という正解を求めがちになっちゃう。でもありちゃんは一貫して「私もなにが正解かまだわからないので、考え続けています」と答えてたの。
変な話、「これが正解です」とか「これをやっておけばとりあえずいいですよ」とかって言う方が、発信者側としては絶対に楽なはずだよね。問題に深入りすることもないし、「この人の言ってることよくわかんないな」って思われるリスクもない。でもあえてそれをせずに、「答えはひとつじゃない」って伝え続けるその姿勢、そのたゆまぬ努力が素晴らしいなぁと感じたの。そういう姿勢こそが、複雑で扱いにくい問題を考えるときに大切なものだなとも思って。

鎌田:たゆまぬ努力…!なにかを発信する人、特に社会的正義っぽいことを伝える人が常に抱える矛盾ってあると思っていて。「これをやれば解決する」ってことがわかっているくらいなら、そもそも発信しないよね。答えがないからこそ、みんなで考えましょうって言いたいわけで。でも多くの人届けようと思ったらわかりやすい入り口が必要で、複雑な問題を単純化して伝えることを試みる。だけど、わかりやすくすればするほど、その本質は抜け落ちる……かといって「これは複雑な問題なんです」と言い続けても、結局誰も参加しないよね。そんな矛盾をずっと抱えているなぁと思う。
私自身、「結局何が問題なんですか?」「誰が悪いんですか?」「何をすればいいんですか?」って聞かれることも多いけど「特定の悪者もいないし、わかりやすい答えもないけど、みんなが自分のポジションからそれぞれ考えられるといいですよね」ってなんとも歯切れの悪いメッセージを発しています…(笑)だからこその今回の絵本。

いわーな:そうだよね。この絵本で、そんなありちゃんの姿勢が伝わればいいなと思ってる。「自分のポジションらしい社会問題との向き合い」は、そのヒントになる心のあり方を物語のエッセンスとして詰め込んだの。それから、実際に読んでもらうとわかるけど、内容は直接的に「エシカル」にふれてないんだよね。この絵本を読んで「これのどこがエシカルなんだろう?」「何が大事なんだろう?」と考える時間を通じて、「自分なりに考え続ける」という姿勢も伝わるといいなと思ってる。そういう意味では、この絵本って単に「物語を届ける」だけじゃなくて、読み取る時間も含めて「エシカルという体験を届ける」ものなのかも。


いわーな:絵本に欠かせない「絵」は、ツイッターで見かけて以来、素敵な絵を描く方だなぁと思っていた、イラストレーターの くらはしれい さんにお願いしたんだよね。DMで突然のご連絡だったのにも関わらず、快く引き受けてくださって。「環境問題などについて、自分もなにかできないかと思っていたので嬉しいです」と言ってもらったんだよね。ご縁を感じたなぁ。


鎌田:くらはしさんのイラストってなんというか独自の世界があって。動物や植物や人の愛らしさがぎゅっと詰まってて。引き受けてくださることになって本当に嬉しかったよね。





■もっと読者を信じていい

鎌田:いわーなちゃんのなかで、この物語はどうやって生まれていったの?

いわーな:それをうまく説明する自信はあんまりないんだけど……でも、テレビCMとかプロモーションとか「広告」を考えるときと同じ思考でつくったかな。ありちゃんの「これを伝えたい」という思いを受け止めて、「このメッセージが響く最適な見せ方ってなんだろう」って考えていったの。

鎌田:広告でやっていることを絵本でもやってみた、という感じ?

いわーな:そうだね。でも、広告と絵本とでは圧倒的に違うところがあって。広告は、それを見た人が一目ですべてを理解できることが大切なの。それに、誰もが同じ感想やイメージを抱くようにつくっていく。「この商品を買いたい!」とか「夏の爽やかなあの感じ!」とかね。でも絵本は、受け取り方が読み手に委ねられてる。つくり手は「伝えたいメッセージ」をありのまま書くわけではないし、読み手もそれに歩み寄りながら「私はこう思う」「僕はこう」って各々感想を抱くもので。読み手に紐といてもらう奥行きをもってメッセージを届けられるのが、広告とはちがう絵本の面白いところだなと思ってるの。


鎌田:余白を織り込むって、ある意味広告より難しそうにも感じるけど。

いわーな:うん、すごく難しかった。私自身がコピーライターだから、「わかりやすく一行で言う」っていうのが仕事の基本。だから絵本をつくるときも「できるだけズバっと言わないと、伝わらないんじゃないか」っていう、ある種の先入観みたいなものがあったの。そんなときに、この絵本の相談に乗ってくださった編集者さんが「もっと読者を信じていいんだよ」って言ってくださって……その言葉に、ハッとした。

言い方が難しいけれど、広告は受け取り手を信じちゃいけないところがある。「興味持ってくれない人を、どうにか振り向かせなきゃ」とか、「じっくり見てくれないから、できるだけ簡単に」とか。それは広告の腕の見せ所でもあるんだけどね。だから、そういう世界で生きてきた私にとっては、「届ける相手を信じる」なんていうのは、すごく衝撃的だった。と同時に、「書き手が読み手を、読み手が書き手を信頼して、お互いにひとつのメッセージに向けて歩み寄る」っていう在り方は、すごく美しくて素晴らしいなと感じたの。ものをつくる人として、そういう生き方をしたいなと思ったよ。そのアドバイスのおかげで、インタビュー記事とか講演では伝えられないような温度感を、この絵本にまとわせることができたと思う

鎌田:そういう意味でも、絵本を読んでくれた人がどんな感想をもっているのか、たくさん聞いてみたいよね。絵本を読んでくれた人が参加できる読書会とか、やりたいな。

いわーな:そうだね。いろんな人の感想を知れたら、すごく嬉しい。

鎌田:そうやって大切につくってきた絵本だから、絵本を読んでもらう時間というか、シーンもすごく大事にしたくて。自分なりに考える、その入り口としての絵本だから、ただ目を通してもらえばいいってわけじゃない。絵本を大切に読む、そんなシーンはどんなときだろうって想像すると、たとえばお風呂で温まって、それから寝るまでの時間にゆっくり読むとか、休みの日の時間がゆっくりと過ぎる朝とか、そういうシーンが浮かんだの。そしてそのときに着ていてほしいのは、私が以前から愛用している大好きな GOOD NIGHT SUIT さんのパジャマだった。相談のご連絡をしたら、ありがたいことにいっしょにオリジナルのパジャマをつくらせてもらえることになって。くらはしさんの描く絵の色合いが素敵だから、その世界観に合うオーガニックコットンのパジャマ「 RORO’S ORGANIC COTTON PAJAMAS 」ができあがりました。

GOOD NIGHT SUITさんのものづくりのあり方も、絵本で伝えたい内容とシンクロしている部分があるから、こうしてご一緒させてもらえて本当に嬉しい。


いわーな:絵本ができあがって一番最初に、GOOD NIGHT SUITのお二人にお話を読んでもらったんだよね。いろんな感想をいただけて嬉しかったな。

鎌田:そうそう。そんな愛のあるコラボレーションで生まれたパジャマなので、ぜひこれを着て絵本を読んで、物語を味わってもらいたいと思います。




■「わかりにくさ」と向き合う

いわーな:鎌田安里紗研究をしていると、ありちゃんは、「ひとりひとりが一度立ち止まって、自分にとって心地いいことをきちんと考えられれば、エシカルな世界は自然と叶えられていく」って思っている気がする。「楽さ」とか「安さ」とか「便利であること」とか、そういうものに目を奪われがちだけど、誰かを大切に思うあったかい気持ちで、みんながいろんなことを選択していったら、自然とエシカルな世界になっていくはずだというような。

鎌田:そうだね。なんか「エシカル」ってすごい崇高なものだと思われている気がするんだ。いま自分が知らない何か。すごく高いところにあるもの。余裕のある人がすること。正義感のある人がすること……そういう、別の世界の「なにか」を自分のなかに取り入れる、という感じで。でも私が思うに、「エシカル」ってもっと、とっても素朴なもの。絶対誰でも考えたことがあるような、日常的なもののはず。
例えば、心の底から環境破壊したい人っていないと思うの。目の前にいる人をめちゃくちゃ搾取してやろう、って思う人もいないはず。でも直接的な繋がりがなくて気がつけなかったり、複雑な仕組みの中でのズレで構造上起きてしまう問題がある。あるいは、気がついていても「社会って、ビジネスって、この業界ってこんなものだよね」という小さな諦めがあるかもしれない
だからこそ、ひとりの人として素朴に抱く疑問や「こっちの方がよくない?」みたいな感覚を、もうちょっと真剣に考えたり感じていいし、それを手放さなくていい。そういう人としての素朴な感覚を社会の仕組みに埋め込み直すことができたらいいなと思う。



いわーな:みんながそれに気づいてちょっとずつ行動を変えたら、世界は大きく変わるかもしれないね。

鎌田:本当に。とはいえ素朴なことこそ実現するのが難しかったりもするよね。「どうしてそんな当たり前のことを言うの?」って、周りから言われたり自分でも思ったりして。
だからこそ、この絵本を読む時間が、自分の中に眠っているかもしれない、閉じ込めているかもしれない素朴な感覚を感じ直す時間になったらいいな。


いわーな:ほとんどの伝達方法は「わかりにくいことを、わかりやすくすること」が求められる。講演も広告も。でも絵本や物語は「わかりにくいことを、わかりにくいまま伝えること」が許される表現方法だよね。その「わかりにくさ」と読者が向き合うことで、自分なりに考えられたり、新しい答えを見つけられたりするきっかけを提供できる、めずらしいメディアだなって思う。なんでも手っ取り早く正解を求めてしまういまの時代には、わかりやすくて広まりやすいものがもてはやされがち。でも本当に大切なことって、もっとわかりにくいことだと思うから。その「わかりにくさ」を受け入れて、それに向き合うことを楽しむ姿勢が、広まっていくといいな

鎌田:そうだね。「わかりにくさ」と出会って、立ち止まりたい人。自分なりの答えを考えたい人。もやもやしたい人。そんな方にぜひ読んでもらいたいし、その中で見つけたあなたなりの答えを聞かせてもらえたらいいな、と思います。



絵本『まんなかのロロ』


RORO’S ORGANIC COTTON PAJAMAS


RORO’S ORGANIC COTTON PAJAMAS 絵本『まんなかのロロ』付き



いわーなまい

コピーライター。1992年生まれ。
TVCMやデジタル施策から商品企画まで、
企業のブランディング活動に幅広く携わる。
個人活動として、コラムの執筆や、
絵本を制作。ちょっとヘンテコでくすっとくる、
ゴキゲンなものがだいすき。


Twitter: @iwa_na914

Instagram: @iwa_na914



Text/Photo kaoaoaori